機動戦艦ナデシコ
REVISION
第五話 逃げる軍人、新たな仲間
「あの……突然なんですが、なぜヤマダさんは医務室に逆戻りになっているんでしょうか?」
「それはね、あの後自分のエステにゲキ…なんとかシールを貼ろうとして落っこちて前と同じとこポッキリやっちゃったんだって」
「……馬鹿」
サツキミドリ2号に停泊する為に向かっていたナデシコ。
そんなナデシコのブリッジでは、いつの間にかブリッジクルーでもないのに
とイツキがルリの両隣でのんびりお茶を楽しんでいた。
ちなみに
はいつもどおり缶コーヒー、イツキもいつもの缶紅茶(今日はレモンティー)、そしてルリは……
「……りんごジュース……甘いですね」
何故かりんごジュースをちびちび飲んでいた。
ともあれガイの間抜けの所為もあって現在正規パイロット一人と臨時が一人という状況に逆戻りになってしまったナデシコだが、ユリカを初めとしたクルーにはそんなに深刻な空気は流れていなかった。
というのも、今回停泊予定のサツキミドリ2号でパイロット3人とエステバリスの最新型が5機、新たに納入される事になっているからだ。
「イツキもこれでやっと本格的にナデシコのパイロットだね」
「はい。ようやくお役に立てます」
「頑張ってくださいね、カザマさん」
抑揚のないルリの激励の言葉に、しかし二人はもう慣れたのか特に何を言うでもなく飲み物を口にする。
「あの〜お二人さん?
なんでブリッジでルリちゃんとお茶してるんです?」
そんな三人に、艦長であるユリカが苦言を呈するつもりなのか頭上から声をかけた。
「お茶してるのは俺達だけじゃないよ。ほら」
そんなユリカに
は笑いながらユリカの背後を指差す。
そこには、
「いやぁ、すみませんなぁ
さん」
「すまんな、
、カザマ」
「ズズ〜……」
冷たいお茶の缶を持っているプロス、ゴート、フクベ提督がいた。
「あ、ちなみに私も貰ったよ〜」
「僕も」
「あ、私もです」
ミナト、ジュン、メグミも自分達が二人から受け取った缶を掲げて見せた。
どうやらユリカ以外は全員受け取っていたらしい。
「えぇぇぇぇぇぇ!?
私のジュースはぁぁぁぁぁぁぁ!?」
平和に騒がしいいつもどおりのブリッジ。
この時は思っても見なかった。
まさか着艦直前にサツキミドリ2号が木星蜥蜴によって落とされてしまうなんて。
艦内に警戒態勢がしかれて、拳銃携帯命令も発令されて暫く。
命令されているのに拳銃を持たない
は、何故か一緒に居たがるイツキと一緒に食堂に行こうとエレベーターを待っていた。
「本当にいいんですか?
拳銃、持っていたほうがいいとおもいますよ?」
「いいのいいの。使い慣れたもののほうが」
「? 使い慣れたもの?
先日の特殊警棒ですか?」
「うん。それもあるけど……これ」
そう言いながらジャケットをめくる
。
そこには、
「な、ナイフ……ですか?」
大きめに見えるナイフのホルスターがあった。
「うん。コンバットナイフ。特注品なんだよ」
「……ナイフマニア、ですか?」
「違う違う。う〜ん……ま、いずれ話してあげるよ……ん?」
そう言って話を笑ってはぐらかした
は、ふと何かに気付いて振り返る。
イツキも同じように振り返ると、
「艦長と副艦長、それにホーリーさんですね」
ブリッジのほうからユリカ、ジュン、ゴートの三人が走ってきた。
エレベーター前で待っている
達を見つけると、ゴートが声をかける。
「丁度いい。
、カザマ、すまんが一緒に来てくれ。新しいパイロットが来た様なのだが、識別コードを出していなかった。乗っとられている可能性もなくはない」
「よろしくお願いしまーっす」
「お願いします、
さん、カザマ君」
ゴートに続いてユリカとジュンが頭を下げる。
そんな様子に
は、
「ちょっと艦長、副艦長。二人とも立場上は俺の上官でしょ?
そりゃ大学は先輩だけど、卒業してないんだからさ。そういう時は上司として命令しないと。俺達だって拒否権あるんだから、嫌なら嫌ってちゃんというからさ」
と困ったように苦笑する。
ユリカはそれで納得したが、ジュンはそうもいかないようだ。
やはりユリカと長く付き合うには、少し堅物くらいじゃないともたないのだろうか?
「まぁいいや。
ともかく今は格納庫へ急ごう」
「エレベーター、来ましたよ」
「おい、まず風呂。それから飯な」
ユリカ達が
とイツキと合流して格納庫に到着すると、赤いエステバリスからパイロットが一人、降りてきているところだった。
ゴートが密かにエステバリスがのっとられていなかった事に安堵のため息を漏らす。
降りてきたパイロットは女の子。
エメラルドグリーンのショートヘアで、男っぽい口調の横柄な少女だった。
そのままユリカに自分のヘルメットを投げ渡し、艦内に入っていこうとするその少女にユリカが慌てて口を挟む。
「あ、あの……あなた名前は?」
「人に聞く時はまずてめぇからだろ」
ドスを聞かせた声で威圧しようとする少女。
「私はミスマル・ユリカ。この船の艦長です」
「ふ〜ん……あたしはスバル・リョーコ。で、風呂は?」
自己紹介したらしたでさっさと風呂に行こうとするリョーコ。協調性は皆無に等しいのだろうか?
しかしゴートはそんな態度もまったく気にせずに質問を続けた。
「0G戦フレームは4機だけか?」
「瓦礫の中にもう一機埋まってらぁな」
「他のパイロットは?」
「さぁね。生きてんだかおっ死んでんだか」
そんなやり取りを聞いていた
とイツキだったが、正直二人はリョーコがネルガルに雇用された人間だったのを確認できたのでもうやる事がない。
やることがないのでイツキは、
「ウリバタケ班長」
セイヤに声をかけた。
イツキの声に顔を綻ばせているセイヤ。ちょっと援交してるおじさんっぽい。
「なんだいイツキちゃん?」
「すみません。私の機体を見ておきたくて」
「あぁ、そういうこと。それなら多分これになるな。引っ張られて来た他の2機はもう個人設定されてたから。これから設定し直しは余裕がないし、コイツはまっさらだったからこれが一番やりやすいだろ」
そう言ってセイヤが指をさしたのは、リョーコが運んできたエステバリスの内の一体。グレーのエステバリスで、カラーリングされていない状態のものらしい。
「やっぱり
さんのエステバリスとは性能が違うんですよね?」
「ああ、そりゃそうだ。アイツのは俺とアイツで勝手にカスタマイズしたからな。たぶん機動性と接近戦の強さじゃ後数年は抜かれねぇよ。第一アイツの腕がねぇと乗りこなせねぇ」
「はぁ……やっぱり凄いんですね、
さん」
自分がカスタマイズに関わっていた所為か、
と彼の機体の事となるととたんに嬉々として語りだすセイヤ。
そんな説明を聞きながら、イツキは自分のパートナーとなった人物の力を再認識して溜め息を漏らした。
「はぁ……やっぱりいきなり相棒なんて調子に乗りすぎたかなぁ……」
そんなイツキの独り言に、セイヤは真面目な顔で応えた。
「いや、少なくとも俺はイツキちゃんが適任だと思うぜ?
テンカワもヤマダも、腕は
に比べりゃまだまだだが戦い方は似てる。それに加えて、悪いとはいわねぇけど二人とも自分勝手に突っ走るからな。あいつ等と組んだ日にゃ、アイツがフォローにまわらにゃならん。それじゃ宝の持ち腐れになっちまう」
「……じゃあ、私は……」
「アイツが自由に動き回れるようにフォローできるようになりゃいいんじゃないか?
あるだろう?
の機体が捨てたレンジが」
そう言ってニカッと笑うセイヤ。
それを聞いてイツキは何かに気付いたようにはっと顔を上げた。
「ウリバタケ班長。ありがとうございます。機体の整備、よろしくお願いしますね」
そう言ってふわりと微笑んだイツキに、一瞬見惚れてしまったセイヤだったが、すぐにいつもの少し皮肉っぽい笑みを顔に貼り付けて親指を立てて見せた。
「イツキ、いくよ」
いつの間にかイツキの後ろに立っていた
が、そう言ってイツキの肩を叩く。
「新任パイロット全員面白そうだ。あのべらんめぇ口調の子も悪い子じゃなさそうだよ」
「え?
あ、はい。行きましょう」
「あ、
! ちょっと待て」
イツキを連れてパイロット達に紹介しようとした
を、セイヤが呼び止めた。
「はい?
なんです?」
「……後で、ちょっと協力してくれ。お前の知恵を借りたい」
「……分かりました」
の返事を聞いたセイヤは、それだけだといって作業に戻っていった。
そしてその後ろ姿を見送った
とイツキも、イツキがセイヤと離している間に来た二人のパイロットとアキトのほうへと戻っていった。
「スナイパーフレーム、ですか?」
「ああ、スナイパーフレームだ」
イツキが補充パイロットのリョーコ、ヒカル、イズミの三人と親睦を深める為に一緒に風呂にいってから、
は格納庫に戻っていた。
途中なにやらアキトとメグミが展望室で少し込み入った話をしていたようだが、何か割って入ってはいけないような気がしてスルー。
「イツキちゃんがな、お前のパートナーとして何かしようとしてるみたいだ。俺としちゃ手伝ってやりたくてな」
「……折角俺に内緒でやってくれてんのに、俺に相談持ちかけたら元も子もないんじゃ?」
「い〜んだよっ!
ってかこの艦で理論でお前に勝てる奴なんざいねぇし。正式にパイロットになったって事で、お前と俺からのプレゼントでいいじゃねぇか」
「……そういうことなら。で、どんなのを構想してるんです?」
「それがな……で、………………こんなんどうだ?」
「なら機体ももっとイジって…………ここをこうして…………こうで……」
「でもそれだと…………機動性も………………だからこうすれば……」
こうして、本人の与り知らない所で密かに、二人の男によるエステバリスカスタマイズ計画が進行していた。
おまけ
「あ、ところで予算は?」
「そりゃあお前用って事で交渉頼むぜ?」
「……プロスさん泣かないかなぁ」
「でよっ!?
ここをこうしたら……」
「ああっ! それはいい考えですねっ! ならここもこうしてさらに……」
「おっ、おいおい!
いくらなんでもそりゃあ…………予算の話は?」
「パートナーのものは俺のものって事で♪」
「ひ、開き直りやがった」