「あやの〜、一緒に帰ろ〜よ。遊んでこ〜ぜ」

「ご、ごめんねみさちゃん。今日はちょっと……

最近ちょっとだけあやのの付き合いが悪くなってきた。
いや、別にいいんだけどさ。むしろ兄貴と上手くいってんのは嬉しいんだけど……

「あやのぉ〜。親友のあたしより兄貴とんのか〜?」

ちょっとだけイジワルいってみたり。

「冗談だよ冗談あやのの事義姉ちゃんって呼べるの楽しみにしてるよ」

「み、みさちゃん?!」

あたしの言葉に顔を真っ赤にしてるあやの。
こんな可愛い彼女もって兄貴の奴は幸せだなぁ、ホント。
泣かせたらあたしが許さないかんな!

「んじゃな〜

ちょっとだけ申し訳なさそうだけど、嬉しそうな顔のあやのに手を振って教室をでる。
柊は相変わらず妹とかちびっ子と一緒にどっかいっちまった。
……
ちょっと寂しいな。
あやのの事だってホントに上手くいってほしいって思ってるんだけど……
でもやっぱりいっつも一緒だったあやのが隣にいないのは寂しいなぁ。










うれしい寄り道♪











……べ?い、……さかべって! おい、危ないって日下部!」

「へぶっ?!」

みゅぅぅぅぅぅぅ…… いたたたたぁ〜、ってなになになんだっ?! って壁?!

「だからさっきから呼んでんのに。大丈夫、日下部?」

尻餅ついたあたしの前に手が出てくる。男の子の手だ。
そのまま目線を上げていくと、そこにあたしの事を心配そうな顔で覗き込んでる顔があった。
全体的にかなりカッコいい感じの顔立ち。大きめなのにいつもちょっと眠そうな目と、意志の強そうなすこし太目の眉毛。それに首筋を隠してるくらい長くて、今時珍しい真っ黒い髪。

「あ、 ……

それはクラスメートの だった。
彼女の居ない男はろくなのがいない中で、剣道部に入ってて、成績も運動神経もいいし、すっごいいい奴。
ほんとに唯一といってもいいろくな男。あり? 使い方変?

「大丈夫か? 変なとこでも打った?」

あたしがボーっとしてると、 は屈みこんであたしの顔をより近くで覗きこんできた。
うあっ?! ち、ちちち近いって! 顔近い!

……ん? 顔が赤い? …………もしかして日下部、風邪でもひいてた?」

「え? い、いやそんなことな「ちょっとごめん」うえっ?!」

ちょ、ちょっとちょっと ?! てててて手が! あああああたしのおおおおおでこにっ?!

……熱はないね。よかった」

そう言ってほっとしたみたいに笑う
あたしは慌てて勢いよく立ち上がって、

「だ、だいじょぶだいじょぶ! 一日終わったと思ったらちょっと気が抜けてね?」

と元気をアピール。ってかあたしのアピールポイントはこれだけかよ。
でも は小さくくすっと笑って、

「あぁ、そっか。って日下部いっつも気ぃ抜けてない?」

「あはは〜バレた? でも気の抜け具合ってあると思うんだよ」

……そういうことにしとこうか」

よしっ! いつものペースだ。





何を隠そう(って隠してるわけじゃないけどね)あたしと はクラスじゃ結構仲がいい。
まぁ はちびっ子達ともよく話したり一緒に帰ったりしてるけど、でもあたしも仲のよさじゃ負けてない……はず。
運動好き同士話があうってゆーか、席がとなりのよしみってゆーか、とにかくよく話してる、と思う。
少なくともクラスで に気がある女子はあたしの事羨ましいっていってるし。
まぁ中学の時から5年連続でクラス一緒だし、前も席となりになったことあるし、柊が宿題見せてくれないときはいつも が見せてくれてるけど……






「日下部は今日帰り一人?」

ってゆーかぶっちゃけね? あたしもそんなみんなと一緒で は好き、だったりするんだ。
自分じゃ隠してるつもりなんだけど、あやのがバレバレだって言ってた。
他の男子と話してる時と態度が全然違うって。
そーかなぁ?
…………
あれ? そういえばあたしなんで が好きなんだっけ?

「なぁ日下部? まだ気ぃ抜けてるの?」

「あ、な、なに?」

話しかけてくれてたの無視しちゃってたみたい。
みゅう、あたしってばなんてタイミング悪いんだろ?

「今日帰りは峰岸いないのって聞いたんだけど?」

「あ、あやの? そ、そ〜なんだよ。アイツ最近付き合い悪くてさ〜」

ケラケラと笑いながらそう応えるあたし。でも内心ちょっと、いやかなりショックだった。
そっかぁ。 はあやのが好きだったのかぁ。可愛いもんなぁ、あやの。
でも……ゴメンな、 。アイツはあたしの兄貴の……

「そっか。んじゃ日下部、遊んで帰らない?」

……………………………………………………………………………………
みゅ?

「峰岸一緒じゃないなら暇でしょ? クレープくらい奢るから遊んで帰ろーよ」

……
あれ? 勘違い? あやのに会いたかったんじゃないんだ?

「どーする? 用事があるなら別にいいけど……

「いくいくっ! ゲーセンいこーぜゲーセン!」

なんかホッとしたら遊びたくなってきた。ってゆーか……

「おっけそれじゃいきますか」

…………
マヂですかっ?! これって軽くデートだったりするんじゃ?!
















あたしって今すっげー幸せもんだとおもう!
と一緒にクレープ食べながら(結局ホントに奢ってくれた)アーケードを歩いてる。
これだけ人が居れば一人くらいあたし達のことカップルだって思ってくれるかな?
そんな事考えながら自分でも分かるくらいチョーニコニコ顔でクレープにあむあむ齧り付いてると、となりで がクスクス笑ってる。

「ほへ? はに?」

「いいからまずその口の中のクレープ飲み込みなさい」

「ふぁい」

もぐもぐやりながら聞いたら苦笑いしながら怒られた。
でも笑ってくれてるから柊みたいに怖くない。
柊はいっつも怒鳴るか、冷たい目で見てくるからホントに怖いんだ。
よく噛んで、のみこんで。

「よく出来ました」

……子供扱いすんなってばっ」

なんか子供扱いってゆーか、動物扱い?

「悪い悪い。これも食べていいから機嫌直して」

そう言って は自分の食べてたクレープをあたしに差し出す。
のクレープは生クリームとカスタードのクレープ。
実はさっきからカスタードが美味しそうに見えててんだよなぁ。

「おぉ、さんきゅ〜

なんか見透かされてる気がするけど、カスタードの魔力には勝てないのだ。

「ぱくっもぐもぐもぐ……

「美味い?」

「ふふぁ……むぐむぐ、ごっくんっ。ん〜、美味い!」

また口の中に物詰めたまま話しかけて、今度はちゃんと飲み込んでから返事する。
自分の分のチョコレートと、貰ったカスタードをぱくぱく。
なんだか が楽しそうにあたしの事みてるけど……って、ああぁぁぁぁぁぁぁっ?!

「むぐっ?! むぐぐぐぐぐぐっ!」

喉に詰まった! バナナが喉に詰まった!
どうしよ〜、取れない?! のとなりでクレープ喉に詰まらせてって最悪じゃん?!

「ほらほら落ち着け。クレープは逃げないから」

と思ったら割とすんなり取れた。
があたしの背中をとんとん叩いてくれてる。

「けほっ! けほけほっ!」

「ほらこれ飲んで落ち着け」

そう言って差し出されたビタミンレモンウォーターをゆっくり流し込んで、

「ぷはぁ! びっくりしたぁ〜!」

「びっくりしたのはこっちだよ。まったく……壁にぶつかったりクレープ喉に詰まらせたり」

そう言いながら の手はやさしくあたしの背中を擦ってくれてる。
う、あぁ……なんか気持ちいい……
でも少ししたら が一回ぽんっと叩いてあたしの背中から手を離した。
落ち着いてたんで にお礼言おうとして振り返ると、

「まったく……んぐっ……飽きない奴だね、日下部は」

そう言ってペットボトルの中身を……ってだからそれっ! かっかかかかかかっ間接キスじゃん!
それもそうだしクレープもっ! ってかあたし今日 と最低三回間接キスしてるってば!
うわぁぁぁぁ、ほっぺたが熱いぃぃぃぃ……

「でもまぁ……よかったよ」

……みゅ?」

あたしが一人でパニクってるのをみて が何故か楽しそうに笑う。
な、なんだ? あたしなんかいいことした? 心配ばっかかけてた気がするけど……

「よかったよ。日下部が元気になって」

…………はい?」

「なんか学校でちょっと元気なかったみたいにみえたからさ。気晴らしにはなった?」

…………心配してくれたんだ、 …………なんかすっごい嬉しい。

「あ、あははは〜。バレてたか。実はあやのがさ〜、親友のあたしより彼氏とるんだよ。柊もいっつもちびっ子達のとこいっちゃうしさ……それでちょっと寂しくなっちった

なんかすっごく嬉しくて にグチってみる。それくらいいいだろ?
そしたら 、なんかまたクスクス笑い出して、

「そんなん最初っから俺に言えばいいのに。遊ぶんなら大歓迎だよ?」

なんて言ってくれた。
…………
って、えぇ?! い、いまなんてっ?!

「あ、それともやっぱ男とじゃ入りにくい店とかもある?」

「そ、そんなとこあたしが行くわけないじゃん! いっつもゲーセンとかカラオケとかそんなんばっかだし!…………あ゛」

やばっ?! むきになっちった! びっくりして…………ないし。

「んじゃ声かけてくれれば付き合うよ。同じ運動部だし、時間も合いそうじゃない?」

………………あっ」

…………
そうだった。あたしが を好きになった理由。
はいつもはあんまり積極的に人と関わろうとしないんだ。ゆっくり本読んでたりして、話しかけられれば普通に返事するし一緒に話すけど、自分からはあんまり話しかけない奴。
でも人が困ってたりすると、いっつも一番初めに助けにいくんだ。
ちょっと物静かだけど、すっげー優しいんだ。

「さ、んじゃクレープは奢ったし、約束どおり遊ぼっか?」

優しくって、あったかい。
もう当たり前の事になってて忘れてた。

「ゲーセンでいい? それともカラオケ、は……二人じゃあんまりかな?」

だからあたしは が好きなんだよなぁ。

「ゲーセンいこーぜゲーセン。実はあたしあんまり歌得意じゃないんだよねぇ」

あたし馬鹿だからあんまり先の事とか考えられないんだけど、でも……

「よし、んじゃいこか」

「おー! 格ゲーでしょーぶだ!」

これからも と一緒にいられたらいいなぁ。出来るだけ近くに……
いつか自分の気持ちを伝えられるようになるまでは、ね。

「はやくいこーぜ、

そう言ってあたしは の手を握ってゲーセンに向かって走り出した。
に好きな人がいたりするのかとかもわかんないけど、これくらいは……してもいいよね?



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