「な……なんですってぇ!!!?」


こんにちは。私、顔良っていって麗羽さま――袁紹さまにお仕えしてます。

今日は麗羽様と仲が良い、というか一方的に仲が良いつもりなんですけど……まぁとにかくそんな御方、何進大将軍さまよりの文をお届けにあがったんですけど、読み終えるなりのあの叫び声です。


「あ、あの麗羽さま。何進大将軍さまは、何と?」

「……これをお読みなさい斗詩さん。猪々子さんも」

「あ、はい」

「へーい」


麗羽さまから文を受け取って読んでみると…………って!?


「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?」

「うわっ!? な、なんだよ斗詩? あたいまだ最後まで読んでな…「れ、麗羽さまこれっ!?」…おーい斗詩ー?」


文ちゃんがなんか言ってるけど、今はそれどころじゃないよぅ!?


「ど、どうするんです麗羽さまっ!? か、宦官達が何進大将軍さまをな、亡き者にしようとしてるなんてっ!?」


そう。

この文は何進大将軍さまからのご相談でした。

“宦官達が霊帝様のお体が芳しくないのを良い事に、今のうちに何進大将軍さまを亡き者にして中央を牛耳る策を始めた”っていう。


「ありゃー、こりゃメンドくさそうだなぁ。どうします、姫?」


文ちゃん正直すぎ。

けど事態も確かにそうなんだけど、それよりも……


「どうするどうするって……決まってるじゃありませんかっ! 猪々子さん斗詩さんっ! すぐに洛陽に向かい、何進さんをお助けしますわ! 準備をしなさいっ!」


麗羽さまの方がよっぽど面倒な事になりそうなんですよぅ。

麗羽さまは何進様の事を“処人から大将軍まで成り上がった割に、名家の私を振る舞いの参考にするなどとても見所のある人”と言って結構買ってましたし。

でも……


「あ、あの麗羽さま? 何進さまは十常侍たちを牽制して欲しいと仰ってるだけですよ? 軍を動かす必要は……」

「なぁ〜にを言っているのですさん斗詩さん? あの方は名家の何たるかを私より学んでいるのです。素直に“助けて下さい”などと言える筈がありません! きっと苦心し、他の方々には頼れない中で何とか私にだけ心中を吐露してくださったに違いありません!ならばその真意を察するのが臣下たる我々の使命でしょう!」


……あうぅ……やっぱりこうなるんですよね。

何進さんにどういった事情と意図があって麗羽さまにこんな文を寄越したのかは分かりませんけど、これは明らかな権力争い。

そんな渦中に袁家の正統な血筋の麗羽さまが入っちゃったら、もう完全にゴタゴタに巻き込まれる事間違いなしじゃないですかぁ。

でも麗羽さまはこうなったらもう何言っても聞いてくれないし……


「よっしゃあっ! まぁ色々メンドくさそうだけど、あたいは蹴散らすだけだっ! 腕がなるぜぇ!」


文ちゃんは当然こうだし。


「おーっほっほっほっほっ! その意気ですわ猪々子さん。ほら、斗詩さんもそんな貧相な顔を顰めてないで早く準備にかかりなさいな。何進さんがお亡くなりになったら責任とれますの?」


そ、そんなぁ……無理にきまってるじゃないですかぁ……


「……はぁ〜い」


結局、こうなっちゃうんだよね。

麗羽さまは一度決めたら絶対に意見を変えてくれないし、文ちゃんは何にも考えてない。

こうなったらどうにかして私が……


「よぉっし! んじゃ麗羽さま! あたい兵の調練にいってきます! 少しでも鍛え上げとかないと!」


わ、私が……


「おーっほっほっほっ! よろしくてよ猪々子さん。準備は斗詩さんにお任せなさいな」


わ……わた……


「あいよっ! んじゃ斗詩、後任せたっ! タマ無し宦官共を一瞬で蹴散らして惚れ直させてやるから楽しみにしてろよぉ!」


…………だ、駄目かもしれない。


「さぁ斗詩さん、さっさと準備にとりかかりなさいな」

「…………はいぃ」


あぁぁぁぁんもうっ、誰か助けてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!





























皆の者久しいの、袁術じゃ。

兄さまと洛陽で最後にお会いしてからしばらく経っておるが、その間も色々あった。

中央の力のなさを嘆いた民衆が武器を持って反旗を翻したのが、その統率力のなさで略奪集団にまで堕ちてしまった黄巾党の討伐。

かつて何も知らずに民を苦しめてしまっていた余としては出来るだけ救いたかったのじゃが、もうそれも出来ないほどに相手の規模は大きくなってしまっておった。

それでも何とかしたいと一生懸命考えて七乃に、せめて食べられなくなってそうするより仕方がなかったような下っ端の者だけでも温情を与える事は出来んのかと聞いてみたのじゃが……


「う〜ん、そうですね〜……美羽さま、それだけでは私はお手伝い出来ても雪蓮様や冥琳さんは納得してくれませんよ?」


困ったようにそう言われてしまった。

少しずつ仕事の出来る人間が増えてきているとはいえ、まだ余達は雪蓮達に手を借りている状態。

昔の余ならば“命令してしまえば”と思ったかも知れんが、そんな事は友相手にする事ではない。

でも、余には冥琳を納得させられるような智謀などないのじゃ。

じゃから……


「雪蓮、冥琳、そして蓮華よ。聞いてほしい。余の所為で賊に身を落した民があの中におるかも知れんのなら、それは余の罪なのじゃ」

「……」

「……ふむ。それで?」

「……私達にどうしてほしいの?」

「余は兄さまから教わった。悪い事をしたら謝るものじゃと。それは余に雪蓮や冥琳、蓮華や呉の皆に董卓軍の皆という“友”を与えてくれた、余にとってもっとも尊い教えの一つじゃ。じゃから余は……余は、余の罪を償うために、余が裏切ってしまった民に謝るために、救える者は救いたいのじゃ。どうか、力のない余に力を貸してもらえぬだろうか?」


余は、頭を下げたのじゃ。

これは余から雪蓮達への“お願い”であるからの。

これで駄目だったら、余にはもう何も出来ない。

説得する頭のない余に出来る唯一の事じゃからの。

そうしたら……


「……ねぇ冥琳? 私達やっぱり、見る目なかったのねぇ」

「あ、あぁ……というかこれは素直さゆえの成長なのだろうが……こんなに早いものなのか」


余の目に映ったのは、余には良くわからん事を言って苦笑いしている二人じゃった。

そしてなにより……


「…………」


蓮華が、俯いたまま何も言ってくれぬ。

余は呉の皆との関係を修復出来てから、特に蓮華とは仲良くなれた気がしていたのじゃ。

同じ人を兄と慕っているという事もあって、蓮華は余を妹のように思ってくれている。

そんな風に思っていたのじゃが……やはりわがままが過ぎてしまったのじゃろうか?


「や……やはり駄目か、の?」


駄目なら仕方がない。

ただ、呆れられているのではないかと。

余はまた我侭で友を失ってしまうのではないかと。

それだけが心配で俯いてしまった蓮華に駆け寄って顔を覗きもうとした余を……


「美羽っ!」

「なっ、なんじゃあっ!?」


蓮華はいきなり抱きしめたのじゃ。

今まで七乃には散々やられたが、蓮華にされたのは初めてじゃったので驚いた。

そして、


「雪蓮姉さまっ、冥琳っ! やりましょうっ!」

「っ!?」


言い出した余が吃驚するくらいの勢いで言い放ちおった。

改めて蓮華の顔を見上げると、そこには姉の雪蓮にも負けぬくらい強い意思と風格を漂わせた瞳が輝いておって、その端には……涙が溜まっておった。


「れ、蓮華?」

「貴女は立派よ、美羽。過ちを受け入れてそれを後悔し、そして可能な限りその贖罪をする。その志もだけど、なにより……」

「私達、今はまだ貴女の客将って事になってるのよ? そこまでしたいなら最初から命令しようとか思わなかったの?」

「そうだな。我等の立場ではまだそれを拒否は出来ない。そうした方が手っ取り早いだろう」

「じゃ、じゃが命令してしまったら余はもう皆の友ではいられなくなってしまうじゃろ? 友とは対等なものであると、兄さまも申しておった。対等なものに命令は出来ないものじゃぞ?」


おかしな事を言う雪蓮達に余がそういうと、今度は雪蓮まで、


「あぁぁぁぁぁぁぁっ! もうっ! ほんっとに可愛いわね美羽はっ!」

「ねっ、姉様!?」

「わわわわわわっ!? しぇ、雪蓮までっ!? 一体なんなのじゃあ!?」


蓮華ごと余に覆いかぶさってきおったのじゃ。

う、嬉しくはあるがさすがに少し苦しかった。

ついには冥琳も、


「よく自分で考え、決断したな。偉いぞ」


と身動きのとれん余の頭を撫でてきおる。

じゃが……


「ん? で、では……協力、してくれるのか?」


雪蓮も冥琳も、余に怒ってはいなかった。

むしろ余の考えを喜んでくれていた。


「当然じゃない。ウチも美羽のところも人手不足なのよ? こんな機会見逃してどうするのよ♪」

「だな。自らの罪を認め、その罪を償う意思のあるものは二度と同じ過ちを繰り返さん。手を差し伸べる事が出来ればその者達はやがて必ず力になってくれるものだ。覚えておくといいぞ、美羽」

こうして呉の中核3人に考えを認めてもらえてからは、話が楽に進んでいった。


祭も余を褒めてくれたし、穏には苦しいくらい抱きしめられたし、明命からはキラキラした瞳で見られるようになったのじゃ。

穏の胸は本当に死ぬかと思ったがの。

シャオにはなかなかやるわねと褒められたし、あまり話しかけてくれぬ思春もこの件に関しては少しだけ笑ってくれたのじゃ。

さすが兄さまの弟子なだけあって厳しくはあるが、良い事は認めてくれる。

実は余の密かな憧れなのじゃ。

まぁそれはともかく雪蓮達も同意してくれたおかげで余達は黄巾党討伐の折にたくさんの仲間を得る事が出来た。

最後の黄巾党首領張角討伐の折には蓮華と共に兄さまの最初の“妹”公孫賛と一悶着起こしてしまったが、最後はきちんと謝る事で仲直りも出来たのじゃ。

やはり過ちを認め、反省して謝罪するという事は人の輪を広げるにおいてとても大切なのじゃな。

真名の交換は余達が起こしてしまった揉め事の所為で時間がなくなって出来なかったが、同じ人を兄と慕う余達が仲良く出来ないわけがないのじゃ。

次にあった時には出来れば真名を交換し、もっと昔の兄さまのお話も聞ければよいのぉ……などと、蓮華と一緒に話していたのじゃが……


「……なんじゃと?」


討伐から戻ってしばらくした後、七乃が信じられない事を申しおった。


「で、ですからね美羽さま。 さんが月さんを護る為に洛陽に1人で乗り込んだみたいなんですよぅ」


すぐに雪蓮達にも来てもらったのじゃが、皆も同じ話を聞いたばかりとの事じゃった。

こちらの弾と楓も含めて全員がそろったところで、思春と明命が詳しい報告をしてくれた。


「ふむ……つまり 殿はまた無茶としている、と」

「あらら。そこまで簡単に纏めちゃうのは冥琳らしくないわね」

「しかし他に言いようがあるまい。まさか……」

「月殿の依頼で何進大将軍を助けに行くとは」


心配そうなのは蓮華と明命だけじゃった。

後は呆れていたり笑っていたり……思春はまったく動じておらんかった。

さすが、一の弟子だけの事はあるの。

そればかりか、


「私達が下手に動けば 殿の足を引っ張る事になるやも知れません。月様達との連絡を含め、ここは静観するのが正しいのではと愚考いたします、蓮華さま、美羽」


心配でどうにか手を回そうと考える余と蓮華を冷静に止めおった。

本来ならが自分が一番に行きたいと思ってもおかしくないというのに……


「そうですよぉ美羽さまに蓮華さん。 さんだって私達が動くべきではないと思っているからこの事に関して何も言ってこなかったんでしょうしぃ」

「下手に動くと万が一 殿の目論見が露見してしまった場合、我等の同盟がばれてしまい一気に皆纏めて朝敵扱いだ。それだけは避けなければならないのです、蓮華様」

「し、しかしっ! ならば万が一にも お兄様が失敗してしまったら董卓軍の皆はどうなるのですっ!? 私は孫家の娘として、一度懐に入れた人間をむざむざ見殺しになど出来ませんっ!」

「そんな事しないわよ。でも冥琳の言うとおり、私達まで朝敵にされちゃったらそれこそ詰みよ。だからここは静観して、上手くいくよう祈っときましょ?」

「ふむ。ならば が失敗したらどうする、策殿?」

「その時はあの子達が死なないように影から援護して、こっちに吸収させてもらうわ。皆ここで亡くすには惜しい才ばかりだしね」


雪蓮がそう言っておどけたように笑うと、それまで重苦しかった空気が一気に飛び散りおった。

余も一国の主としてこれくらい、出来るようにならねばならんの。

とはいえ今はせっかく重苦しさもなくなったことじゃ。


「では余達は兄さまの無事を祈りつつ、いつでも動けるように準備をしておくのじゃ七乃。万が一の場合兄さま夫婦は確実に余達の仲間になってもらわんとな♪」

「はい〜♪ 弾君と楓ちゃんもそのつもりでお願いしますよ〜?」

「はっ」

「御意です」


せめて余もこれくらい場を和ませるような事を言わねばの。


「むっ! それは聞き捨てならないぞ美羽。 兄様は私達の仲間になってもらわなければ! ねぇ思春」

「はい、蓮華様」

「あぅあぅ。わ、私も 殿には沢山教わりたい事があるのです」

「あらら〜。奥様いるのにモテモテですねぇ さん。まぁ穏も色々お話聞きたいので賛成ですけど〜」


……むぅ……失敗したかの?

余計収集が付かなくなってしもうた。


「はははっ! ならば儂も賛成じゃ。見所のある男である事は事実じゃからの」

「というわけで冥琳っ! 万が一に備えての下準備、頼んだわよっ!?」

「はぁ……お前まで煽られてどうするんだ雪蓮。まぁ、気持ちは分らんでもないがな」


でも、皆の暗い雰囲気はなくなったし、これで良かったかの?

まったく兄さまは余の兄さまじゃというのに……じゃが、皆に優しいのが兄さまじゃからの。

早く無事に戻って、また色々お話を聞かせてほしいのじゃ。

じゃから兄さま、余の…いや、皆の為にも……


「……無事を、お祈りしております」




























はいどーも久々の劉封です!

いやぁなんだかんだで結構お会いしてなかった気がしましてっていうか正直誰に話しかけてるのとか聞かれても答えようがないんですけどね!?


「傾さん急ぎますよ!?」

「わ、分っておる!」


それでですねっ何を句読点もいれずに急いでいるのかっていうと先ほど半蔵が飛び込んできましてっ!

つまり……


「朝敵何進よ! 十常侍の命により貴様を粛清する!」

「ちぃっ! 早いのぅ……貴様が丁原か」


想定外に早い、丁原軍の襲撃です。

俺の調べではまだ十常侍の根回しは完璧じゃなかったはずなんですけど……これは、もしかしなくてもあれですね。


「……読み違えたか」


ちょっと自分の情報力を過信しすぎましたかね?

でも根回しの具合は城内での傾さんと俺に対する態度で敵か味方がすぐに分ったから間違ってないと思うし、宦官の嫌らしさからして傾さんが完全に孤立無援になるまで、つまり最も近くに置かれた俺以外誰も味方がいなくなるか俺自身にも声がかかってくるまでは動かないと思ってたんですよ。

だから読みどころは俺に声がかかるかかからないかって所だと思ってたんですけど……


「か、何進様お逃げください!」

「お、おのれ! 貴様等自分達が何をしているのか分っているのか!?」


今、俺と傾さんの周りには微々たるものではありますが、護ろうとしてくれる兵達がいます。

つまり俺の考えが外れていたって事なんだろうけど……なんかしっくりこない。

というのも、


「ええいっ、煩い奴等め! 大人しく見過ごせば命までは奪わんというに!」


丁原に、あまり余裕が感じられないんです。

十常侍が後ろについていて、相手はもう殆ど孤立してたいした兵力もない大将軍。

いくら城内にまだ引き込めていない兵達がいるって言ったって、その数ももうごくわずか。

なのにまるで勢いに任せるように、しかも自分が先頭に立つようにしてくるなんて、狡猾な十常侍が手駒として選んだ人とは思えないんですよ。

なんでなんだ……


「急げ! 急がんと袁紹達が軍を率いてやってくるぞ!」


……あぁ、そういう事ですか。

要するに傾さんが出した書状の所為ですね。

ん? でも俺、傾さんが書いたものに問題がないかちゃんと確認したはずなんですけど……


「あの、傾さん? こんな時に何なんですけど、あの袁紹殿に出した書状に“助けにこい”なんて言葉は書いてなかったですよね?」

「……書いた覚えはないぞ? というか も確認したであろ?」

「そうなんですよねぇ……なんでだろ?」


予定ではその書状が送られた事がバレて、袁紹殿が牽制してくる事に焦ってもらって向こうの計画をずさんなものにするはずだったんですけど……


「ここまで勢いまかせでこられるなんて、かなり予想外でした」

「……まぁ仕方なかろう。しかしこうまで押し込まれてはもはや……いざとなれば 、お主は逃げてくれ。一時とはいえお主と過ごせて余は、幸せであった」


え、いや、そんな諦められても困るんですけど……っていうか傾さん、実は俺の事かなり過小評価してません?


「お言葉ですが傾さん、人をあまり馬鹿にしないで貰いたいです」

「は? じゃ、じゃが……」


これくらいの雑兵と、焦って転がり込む丸い人くらい……


「何進、覚悟ぉぐぁっ!!!?」

「……残念」


俺一人だって十分どうにかなるんですよ。


「え? 、お主……」

「ウチの嫁さんの一人が結構な規格外なんであんまり目立ちませんけどね? 俺だって一応流派の長やらせて貰ってますんでこれくらいわけないです」


とはいえもうこっちの味方は後数人。

なんとか雑兵を抑えてもらうのが精一杯っていった感じです。

後は最近入った側近、っていうか大将軍のツバメ的な見られ方しかしてない俺だけだと思って丁原が普通に斬りかかってきてくれれば終わりに出来たんですけど……


「うわあぁぁぁぁっっ!!?」

「こ、このやるぐぁ!!!?」

「ぬぅ、瞬く間に3人もとは……ただの娼男だと思っておったが……これは拙いな」


中々そう甘くはないみたいですね。

となると、後この人が切ってくる札といえば……


「……出番?」


……やっぱりこの娘ですか。


「お、おぉ! 出番だ! この身の程知らずの男と艶惚けた大将軍を斬って捨ててしまえ!」


そう言われて後方から出てきたのは、ここに到着したその日に出会ったあの娘。

突然俺に殴りかかってきたと思ったら優しい笑顔で動物達にご飯を上げていたあの娘。

そう。

今俺を認識して少しだけ表情を変えたこの娘こそ……


「………… ? なんで……」

「それは俺の台詞ですよ、恋。なんでこんな事に力を貸してるの?」

「…………いえない。でも、負けられない」

「なら……しょうがない。俺も傾さんに死んでほしくないから……全力でいくよ、呂奉先」


あの飛将軍と呼ばれ、地上最強の武将とも名高いあの呂布、だったんです。

劉屋に調べてもらってた彼女の正体の結果を知ったのがほんの数日前。

正直、一番当たってて欲しくなかった予想が的中した気持ちでした。

俺が知ってる呂布は前生きてた時の評価も今の評価もまったく変わりませんし……まぁ、正面から戦うのなんて無謀もいいところですよね。

俺は所詮、劉封ですから。

正直いつ自分の体が震えだして止まらなくなるかビクビクしてます。

でも、ね。

俺も主や仲間の期待は裏切りたくないし、傾さんにむざむざ殺されて欲しくなんかないし、何より……


「悪いけどどんなに汚いって思われようが、俺は帰らないといけないんだ」


稟と葉の為に、ここで諦めるわけにはいかないんです。

それに……知識が呂布に対する恐怖を煽ってくる一方で、俺自身の中の何かが“恋は大丈夫”っていってる気がするんですよ。

所詮は感みたいなものなんでしょうけど……でも、どうしてもこの娘が金や権力欲に塗れた丁原や十常侍と結びつかないんです。

だから……


「そう簡単にやれると思うなよ?」


劉封、少し分が悪いかも知れませんがここは……賭けにでます!

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