「―――――なるほど。分かったわ……月」
「……うん。覚悟は出来てるよ、詠ちゃん。それに……今まで一緒に頑張ってくれた詠ちゃんや霞さん、葉さんに、私に力を貸してくれるって言ってくれた
さんと稟さん……皆がいてくれるから、私は大丈夫」
「……月」
……なんか……心底、月様に仕えて正解だったと感じてます、劉封です。
洛陽の劉屋からの報告を月様と詠殿に見せに来ると、二人はそれに黙って目を通してから静かに口を開きました。
「実は、先だって皆さんが何進さんと合同で賊の討伐にいってくださった時に送ってくれたお話、ありましたよね?」
「稟があんたのトコの半蔵を遣したアレよ」
そこまで言われなくても覚えてますよ、詠殿。
そもそもあの行軍中に半蔵にお願いした連絡はそれ一つだけだったんですから。
「あの知らせを受けて私、詠ちゃんと二人で色々考えました。何進さんの事もそうですし、その……これから私達に起こるであろう事についても」
「……はい」
「何進さんとは少ししかお会いした事ないですけど、あの方は世間で言われているほど悪い人じゃないんです。結果だけ見てしまえば、力が足りなかったと言われてしまうのは事実なのかも知れませんけど」
珍しい。月様がここまではっきりと他人の批評をなさるとは。
「私は……そもそも私は、私の両親から今の地を受け継いで太守になっています。当初は、これからは統治者としてお父様やお母様の名に恥じないように、皆で仲良く静かにここで暮らしていければいいくらいにしか思っていませんでした。でも……」
月様の瞳が、いつになく決意に満ちた強い光を放ってます。
「それじゃあ駄目なんです。ここの人達だけ幸せでも、それは自分本位の人達と何も変わりないから……だから私は詠ちゃんと約束したんです。出来るだけ、私の力の及ぶ限り今私達が感じているこの幸せの輪を広げようって。その時が、私が本当に太守になった時だったかもしれません」
「私は、そんな決意に満ちた当時の幼い月様を見てこの方に仕えようと決意を固めたんだ」
「ウチもや。ちっこくて優しい雰囲気やのに、目ぇが綺麗で力強かったんをよう覚えとる」
へぇ……葉と霞がここに来たあたりの話か。
今度機会があったら詳しく聞きたいけど……
「
さん」
「はい」
今は、こっちが優先です。
「私がいずれ洛陽に呼ばれる可能性がある事は分かりました。それに関しては、詠ちゃんと稟さんに協力してもらって準備を怠らないようにすればいいと思います。それくらいしか出来ませんけど、でも手がないわけじゃないんです。でも……何進さんの事に関しては、私にはもう打てる手がありません」
「丁原殿が何進を討つために呼ばれるって話だったから繋ぎを取る事も考えてはいたんだけど、現状ではこっちの信用度の方がはるかに低いから迂闊な事をすればこっちが宦官共に狙われる事になりかねない。もちろんその場合、丁原殿もボク達の敵になるだろうし、もっと極端な話朝敵にされてこの大陸で孤立する可能性だってあるわ。こうなってしまった以上ボクとしては何進の事は諦めるしかないと思うんだけど……」
そう言って詠殿が視線を向けるのは、やはり月様。
向けられた月様は申し訳なさそうに、泣きそうな表情で俺に……え?
あ、頭を下げた?
「これは私の我侭です。皆が笑って暮らす為に戦う決意も、志半ばで散ってしまうかもしれない覚悟も決めました。でも……駄目なんです。死ななくてもいい人が殺されるってわかっているのに見て見ぬ振りをする事が、私には出来ません。そうする事が最良だって言われても、納得出来ないんです。死ななくてもいい人が死ぬ事の何が最良なのか……私がより多くの人達を救う力を得るためにその無駄な犠牲がなければいけないって言うなら……そんなの、いりません」
「……貴女はすべてを救うつもりでいるのですか?
月様」
「いいえ稟さん。私にすべては救えません。私は神様じゃありませんから。信念をかけた戦で散る命は私が背負うべき命であり、これまでもこれからも、そんな死んでいった人達の死を悔やむ事はその人達への侮辱です。皆の死は……私の誇りなのですから。でも、救えるかもしれない命があるなら、私は最後まで足掻きたいです。自分自身の保身や欲の為だけに人の命を差別し踏み台にするような事をしてしまっては、私が私でいられなくなります。そうしたら……私の為に命を懸けてくれた人達を誇る事が出来なくなってしまうんです。だからっ!」
月様は、いつの間にか俺に縋り付いていた。
そして懇願するような瞳で俺を真っ直ぐに見上げて、
「お願いです、
さん。
さんなら間に合うかもしれないんです。私に何進さんを、見捨てさせないで……」
そう、泣いていた。
霞が犬歯を除かせて微笑み、葉が静かに目を閉じ、稟が暖かな苦笑を零す。
三人の意見は、聞く必要はないでしょう。
そしてぽろぽろと涙を零す月様の後ろで、詠殿も頭を下げていた。
「無茶なお願いだっていうのはわかってるわ。間に合わないかもしれないし、一歩間違えばアンタが危ないのも分かってる。でも……今ボク達が心がら信頼できる人達の中で一番早く移動が出来て、いざという時に何進を助け出せるだけの武を持っていて、それで誰にも気付かれずに一人で行動が出来る人間は……
しかいないの。だからお願い……」
正直、上に立つものとしてどうかと思います。
このご時勢、無駄に散る命なんていくらでもある。
それに一々気をとられていたら自分の首があっという間に絞まっていくようなこんな世の中で、月様のような考え方をする人は皆“甘い”と思われるんでしょう。
けど……
「人としては、正しい……な?
稟」
月様の俺への願いを、どこか複雑そうに聞いていた稟。
でも稟だって本当は分かっているはずなんです。月様の言ってる事は間違ってないって。
ただ軍師っていう立場上、自分が仕える人や土地の不利益になるような事は簡単に認められないだけで。
「……そう、ですね。確かに月様は人として何も間違っていません。軍師としては複雑ですし、
殿の妻としては夫が危険な事をするのを止めたいですが……」
「そんな月様だから、俺は仕えている」
「私もです」
そう言って諦めたようにため息をつき、改めて苦笑いを零す稟。
「そこが月様の“譲れない一線”である事こそ、
殿と私が貴女に仕官した理由なのです。貴女はより多くの民を救う為に力を求めても、決して得るために人の道を外れはしない。そう信じたからこそ……ですから月様、私は詠と共に貴女のそのお考えを出来うる限り補佐させていただきます」
「稟さん……ありがとうございます」
「あ、ありがとね、稟」
「無論、私もです月様。稟と詠が智で貴女を助けるならば、私は霞、剛と共に武でお力になりましょう」
「もちや。命を懸けて……っちゅーのは
から怒られそうやけど、そんくらいの気概はうちかてもっとるよ。せやから月、アンタはアンタの信念を絶対曲げるんやないで」
稟、葉、そして霞が次々と微笑みながら月様と詠殿に言葉をかけていく。
そんな中今までずっと黙って聞いてた剛が、静かに口を開いた。
「俺は、正直言わせてもらえば姉者や霞様みてぇな理由でここに仕えたんじゃねぇんだ。食い扶持減らしの為に家を出て、俺に一番合った仕事が兵だったってだけの話だ。でも兄者のおかげで最近月様や皆と話す機会が増えて、俺はここの兵になった昔の自分を褒めてやりてぇって思うようになったんだ。月様……アンタはなんも間違ってねぇ。こんなに言葉遣いがなってねぇ俺にも笑って話しかけてくれるアンタが笑えなくなるなんて事、あっちゃならねぇんだよ」
剛……なんかすっごいカッコいい事言ってます。
こんな男が俺を兄と呼んでくれてるなんて……俺もカッコ悪い事出来ませんね。
「剛、霞」
「おうよ」
「ん〜?」
「留守は任せる」
「任されたぜ、兄者」
「いつもの事や。気にせんでええよ」
「稟、葉。悪い」
「いえ、いってらっしゃいませ」
「気をつけろよ?」
「月様、詠殿……その仕事、任されました」
「っ!
あ……ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……
さん」
「あ……ありがと……
」
こうして俺は、初めて地元を出た時以来の一人旅に出る事が決定しました。
……死なない程度に、がんばろう。
「というわけで俺、一足先に天水を離れる事になったんだ。だから流琉ちゃんを見送れないと思うから……元気でな?」
「あ、はい。
様には本当にお世話になりっぱなしで! なのに全然恩返し出来なくてすみません!」
ある日、劉屋の営業時間が終わって後片付けをしていると突然
様が稟さんと葉さんをつれてやってきました。
なんでも明日からお仕事でしばらくここを離れるみたいで、だから私がここを発つ時はいないだろうから挨拶をって。
最初にお会いした時からご迷惑ばっかりかけてしまってるのに何もお返し出来なくて……本当に申し訳ないです。
「別にいいよ。行軍の時に散々ご馳走になってたんだし……でもそうだな。もしまた会ったら、その時はまた料理ご馳走してくれるかな?」
「あ……はいっ!
きっと今よりも美味しい料理を作れるようになって、精一杯ご馳走させていただきますっ!
あ、もちろん稟さんに葉さん、他の皆さんもぜひっ!」
「ふふ、ありがとうございます」
「まぁ私達は行かないのできちんとお前を見送れるのだがな」
あ、そうでした…ってあぁっ!?
様が笑って…あ、稟さんもっ!?
うぅ……恥ずかしい。
「でも流琉ちゃん。ここでは腕を磨く事よりももっと大切な事を学んでほしいな。わかるか?」
「あ、はい。劉屋の安さと美味しさ、そして速さの秘密。それはなるべく良い食材を安く仕入れ、尚且つそれらを極力無駄にしない方法が確立されている事。それに極力下準備を済ませておく事で掛かる手間を省いて料理を出す速さを上げ、お店の人達の負担を軽くする事、ですよね?」
これに関しては本当に、日々勉強なんです。
今まで私はとにかく“美味しい”って言われるお店で修行させてもらってましたから、食材の美味しい部分とかその一番良い調理法はいくらでも見る事が出来たんですけど、材料費とかまで気にした事がなくて……
でも考えてみたらそれは当然の事だったんです。
だって、料理をするのには材料がいる。その材料にはお金が掛かる。そしてお金は無限じゃないんです。
良い食材を美味しく料理するのは料理人として当然。だから私はここで、最高の食材でなくても美味しい料理をお客さんに出すにはどうすればいいかを教えてもらってます。
「料理を出す速さと店の人間の負担に関しては流琉ちゃんが将来目指すお店によっては必要ないかもしれないけど、食材費を抑える事とかそれを無駄にしない事は若いうちにぜひ覚えてほしい。その歳で贅沢を覚えたら碌な人間にならないから」
「りゅ、劉封様?
劉封様もそんな言葉口にするほど歳食っちゃいないでしょう?」
「いやいやお姉さん、俺も最近町行く子供から“おじさん”って呼ばれる事が少しずつ増えてきてるんですよ。そしてそう呼ばれても気にならなくなってきたし、若くはないって事じゃないですかね?」
「私はむしろ
殿の子供の頃というのが想像出来ません。少なくとも私が出会った頃には“大人”な感じがしていましたし」
「むぅ……そう言われれば確かに、歳はたいして変わらんはずなのに私は明らかに年下扱いされていた気がするぞ。今は夫婦になっているし、それがむしろ嬉しいくらいだが……」
……あれ?
いつの間にか話題が変わってる?
でも……
「おじ様、かぁ……」
「……え?
今流琉ちゃん、なんて?」
……あっ! い、今私……声に出してたっ!?
「ごっ、ごめんなさい
様っ!」
「……いや、今度は何で謝られた?」
「あの、そのっ、えとっ、い、一度
様をおじ様って呼んでみたかったんですっ!」
「……はい?」
あぅ……は、恥ずかしい。
恥ずかしいけど、御恩のある
様に無礼な事言っちゃって理由の説明も無しじゃ申し訳なさ過ぎるし。
「あ、あの私……料理の修業に出るまでは幼馴染と一緒に小さな村に住んでたんですけど……親とかそういうの、いなかったんです。幼馴染もですけど。で、村で一番強かったのが私と幼馴染だったから私達が賊とかから村を守ってたんです。だから……頼りになる男性って、初めてで。本当は、そ、その……と、父様とお呼びしてみたかったのですが……それでは、その……稟さんと葉さんに申し訳なくて……」
お二人とも
様の奥方様だし、私が
様を“父様”なんてお呼びしたらこの町で皆さんに変な誤解を与えてしまうかもしれないし……
「自分で言うのもなんだが、兄では駄目だったのか?」
「お兄さんは村にも結構いたんです。皆私達を妹みたいに思ってくれるいい人達なんですけど……」
でも、申し訳ないんですけど何処か頼りなくて。
だから私の中で“兄様”っていうのは、優しくて楽しくていい人達だけど、ちょっと頼りない男性なんです。
でも
様は、優しいけどちゃんと厳しいところがあってとっても頼りになる大人の男性。
だから漠然と、“父様ってこんな感じなのかなぁ”って思ってしまって。
でもさっきの理由からそうは呼べなくて、そんな時に……
「さっきの会話で
殿が“おじさん”と呼ばれる事がある事を知り、“おじ様”ならば良いのではないかと思った、ということでしょうか」
私が掻い摘んで説明すると、稟さんが簡潔に纏めてくれました。
うぅ……でも苦笑いされてます。
「しかしなぁ……もし
がおじ様と呼ばれるようになると……稟と私は“おば様”という事にならないか?」
「「……あ゛」」
「う〜ん、俺は別に何と呼ばれようと構わないんだが……そう思われてしまうのはいただけないな。というわけで流琉ちゃん、申し訳ないけどおじ様は却下させて。それならまだ俺が頼りないと思われても兄って呼ばれたほうがいい」
「あ、はい。でもやっぱり
様って呼ばせていただきますね。尊敬してる人をあんまり気安く呼びたくないので」
「別に構わないんだが……でもまぁ、流琉ちゃんの好きにしてくれ」
様はそう言って、稟さんと葉さんと一緒に劉屋の閉店作業を少し手伝って下さってからお帰りになられました。
これからしばらくお店に来られなくなるからとおっしゃっておかみさんとちょっと長めの挨拶をされてからもう一度私に、
「じゃ、次は何処で会うか分からないけど……がんばれよ」
そう言って、笑いながら手を振って。
結局呼び方は
様に戻っちゃいましたけど……はいっ! がんばりますっ!
……父様♪
「典韋ちゃん?
何ボーっとしてんのよっ!
閉店作業が終わったら明日の仕込み、教えるから早くしなさいっ!」
「はいっ、おかみさんっ!」
「―――さて……というわけでやってきました洛陽」
流琉ちゃんに挨拶した翌朝早くに出立して、洛陽に着くまで約6日。
昔…というか前の人生で読んだ横山先生の忍者漫画に忍者は馬と並走して馬の体力温存を図る、みたいな描写があったので、ものは試しということでやってみました。
結論。
大幅に予定の時間を短縮出来た事は出来たが、いつの間にか馬と普通に並走出来る脚力を持っている自分は何かおかしいのではないかと思うようになりました。
跳躍力は阿呆みたいにあるので手綱を持って、駄目そうだったら飛び乗ろうと思ってたのですが、なんと全力で走ってみると俺が引っ張りそうになってしまう始末。
恵まれた身体にはしゃぎすぎて鍛えすぎましたかね?
偶にすれ違う人が、人間が馬と並走してその馬に銀色の怪鳥(半蔵)が乗っている姿を目を擦って唖然と見送ってましたし。
でもまぁいくら鍛えても腕力では葉や剛にはまったく歯が立ちませんし、もう成長の余地があまり見えません。
結局俺は速さに生きるしかないって事みたいだとも取れますけど。
まぁともかく道中は野宿と、大きな町で劉屋を見つけたらご厄介になる、を繰り返して来ただけなので特に何事もありませんでした。
これからの事を考えると多少でも仲間を増やせれば良かったんでしょうけど、生憎と俺は三国志は結構読んだんですが武将個々にはあまり詳しくなくて。
お話として面白かったので原作とか史実とか中国の演義とかも少し調べてみましたし、だから俺、劉封の立ち居地も分かったんですけど、誰が何処の出身とかそんな事まで詳しくは覚えてません。
記憶ももうずいぶん古いものになっちゃったんで。
白蓮に関平の事を伝えられたのだって、物語の中で劉備たち義兄弟が一度バラバラになった後再会した場所にいたって描写があったから覚えてたくらいですし……まぁここにいるかは分かりませんけど。
とにかく一番読んでたのが横山先生の三国志演義なので、多分俺の知識はかなり偏りがあるはずです。
そんな偏った知識でいるかどうかもわからない人材探しなんて、今はしている場合じゃありません。
「……と、そんなこんなでとりあえず劉屋に到着。半蔵、何かあったら呼ぶから自由にしてていいぞ。でもあんまり目立つなよ?」
「クァーッ!」
「よし、いってこい」
半蔵をいつもどおり自由にしてから馬をつないで店に入ると、
「いらっしゃ…いませ!
お席はこちらでよろしいですか?」
ここの報告を送ってくれた店主の兄さんがさりげなく俺を一番奥の席へと誘導してくれた。
掻き入れ時を過ぎてるとはいえ、報告にあったとおりお客が少ない。
城の兵達の昼食時前後は一般の人達が入ってくれているはずなんだけど……それだけ皆余裕がないって事なんだろうな。
「いつものお願い」
「はいっ!
かしこまりましたっ!」
元気のいい返事の後しばらく待つと、
「牛丼お待たせいたしましたっ!
……詳しいお話は後程」
と牛丼をおいていく時に小声で声をかけ、目立たないよう薄くした竹簡を一緒においていった。
ちなみに牛丼ではなく竹簡の方が“いつもの”なのであしからず。そんなにここのお店には来てないですしね。
食べながら目を通すと、最後の連絡から俺がここに着くまでの状況を簡単に纏めてくれている。
「ふむ……丁原殿はもう着いたのか」
どうやら俺の少し前に丁原殿はやってきているらしい。
着たばかりなので信憑性はそれほど高くないが、今のところ評判はあまりよくないみたい。
到着早々宦官達に、それはそれは豪勢な食事会に招かれていたようで……町がこんな状態だってのに何やってんだか。
しかもそれを普通に目撃されてるとか、もうホント空気読めてないですよね。
配下の将も……駄目だ、全然名前知らない。
あくまでもその食事会にいった将達の名前で、しかも聞こえてきたのだけみたいだし、もしかしたら誰か他に有名どころがいるかも知れないけど。
そんな事を思いながら牛丼をかき込み、どうやって城に潜り込むかとかを考えていたそんな時でした。
「たのも〜ですぞ〜っ!」
そんな元気のいい声が飛び込んできたのは。
あまりの声の大きさに目を向けると、店の暖簾の下に立っているのは小さな女の子。
っていうか……本当に暖簾の下に立ってました……ってそうじゃない!
「元気が良くて結構だけど、料理屋入るのに頼もうはないだろう頼もうは」
「む?」
「………………あ」
思わず口をついて出てしまった。
むぅ〜っと睨み付けてくる小型の少女。
あぁ……こっちに来るよ。
小さいのにズンズンやってくる。
そんな少女の、明らかに憤慨している表情を見ながら俺は思いました。
「……どうか、普通の女の子でありますように」
自分のそんな小さな願いは、間違いなく受け入れられないだろうと。
なんですか?
二人も嫁さん貰った俺への試練かなんかなんですか?
いい加減、少しは普通の人と普通の知り合い方させてくださいよ、ホント。
……あぁ、なんか今無償に白蓮に会いたい……って、稟、葉、別に浮気とかじゃないからな!?