「典韋さん、この度は我が軍へのご助力ありがとうございました。皆さんの主として、心よりお礼申し上げます」

「ふぇっ!? あ、い、いえそんなっ!? わたしこそ色々勉強させてもらって……あ、あの、ありがとうございました」

「へ、へぅ……で、ですが我々は命に直結する食のお世話をしていただいたんですし……」

「わ、わたしの方こそ我侭で重要な食料を任せてもらっちゃいましたし……」

「へぅ……で、でも……」

「あ、で、ですから……」

「…………なぁ、 ?」

「どうした、霞」

「…………これ、いつ終わるん?」



























冒頭より幼女二人の微笑ましい譲り合いをお送りしました。

皆さんいかがお過ごしでしょうか、劉封です。

何進殿の衝撃的な暴露話を目的とした黄巾党討伐も一区切りつきました。

去り際の寂しそうな後姿が忘れられず、恩には報いるべきじゃないかと後を追う事も考えましたが、稟と話し合って俺の一存で決めてしまうよりもまずは報告して今後の方針を決めようという事になり、帰還。

で、何進殿の衝撃告白の時から行軍中食当として働いてくれていた流琉ちゃんこと典韋ちゃんを月様達にご紹介したところああなったわけなんですが……


「それで典韋さん、これからいかがなさいますか?」

「ウチで働いてくれるっていうなら住む場所とかもちゃんと用意するけど?」

「あ、あの、大変ありがたい事なんですけど私、実は幼馴染に会いに行こうとしてたのであんまり長くは滞在出来ないんです」


どうやら流琉ちゃん、料理修行とは別に用事があったみたいです。

本人が希望した事とはいえこんなところまで引っ張ってきちゃったんじゃ、悪い事しましたかね?


「ちなみに流琉ちゃん。その幼馴染って人は何処に?」

「え、えと……最後の知らせで故郷の村から陳留に行って、お城で働いてるとか……」

「お城? という事は武官か文官にでも取り立てられたのかな?」

「いえ、どうなんでしょう? 季衣…あ、幼馴染なんですけど、前にも一度少し大きなお屋敷を見てお城だってはしゃいでた事がありましたし……今回もそうなんじゃないかって思ってます」


……ふむ。

なんていうかこう……純粋な田舎の子って感じが浮かびます。

じゃなければ両手の指で数えられる以降の数字はすべて“いっぱい”と表現してしまう残念な子なのか。

あぁ、両方兼ねそろえてる場合ってのもありますかね?

まぁともあれ、


「それじゃああんまり引き止めるわけにもいかないですね、月様。それに詠殿」


っていうことですね。

本人が望んだとはいえ最終的にこんなはずれの方まで来るとは思ってなかったでしょうし、幼馴染にだって早く会いたいでしょう。

こんなご時勢だし、なおさら。


「そうですね。では典韋さん、ここまでのお礼として城内にお部屋をご用意させていただきますから、そこで旅の疲れを取ってください」

「…………へ?」

「すぐに出て行くわけでもないでしょ? ここまでずっと行軍に付き合ってきたんだし、貴女の料理の修業もかねてたって聞いてるわ。だから私達は貴女がここにいる限り、貴女の身元と生活を保障する。疲れが取れて、貴女のここでの目的を果たしてその幼馴染のところに向かう時は一言そう言って頂戴。旅支度もこっちで手配するから」

「……え? あ、あの、それってつまり……」

「好きなだけ滞在してください、典韋さん。そして発たれるときはお見送りさせてください。押し付けがましいかもしれませんが、これをもってお礼とさせてください」


そういってにっこり微笑む月様。

隣の詠殿も柔らかい表情の笑顔で微笑む月様とあたふたしている流琉ちゃんを見ています。

さっきから一言も発していない稟や葉、それに霞も皆それぞれに笑みを浮かべて。

そうしてしばらくするとやっと落ち着いたのか、流琉ちゃんは月様に満面の笑みで応えました。


「少しの間ですけど、よろしくお願いします!」






























何進殿からのお話の裏を取る準備を怠ることなく行軍を終え、途中で食当として同行してくれた流琉を我等の本拠地である天水に客人として迎えることになりました。

後で話を聞いてみるとどうやら流琉は、今のこの時勢に選りすぐりの食材を使って贅の限りを尽くしたような料理は求められていないのだと悟ったそうで、限られた食材での料理修行の一環として行軍に同行したそうです。

確かに、行軍中は持てる限られた糧食だけで食事を賄わなければいけませんし、少しも無駄にすることなく、尚且つ兵達の士気を保ち、願わくばさらに上げられる様な食事があれば理想的ですから、流琉の考える料理の修業にはもっとも適した修行法だったのでしょう。

おかげさまで兵達も最後まで士気高く戦い抜いてくれましたし。

で、どうやら陳留のほうに幼馴染がいるらしくそんなに長期滞在出来ない流琉なんですが……


「あ、あのっ! 稟さんにお願いがあるのですが……」

「? はい、なんですか?」

「私……ここにいる間、私が劉屋で働けるようにお願いしてみては貰えませんか?」


ある日、執務室に尋ねてきて突然こんな事を言い出しました。


「…………はい?」

「私、一度あのお店で料理を作ってみたかったんです。でも何処の町でも流れの料理人に短期の仕事は給仕以外任せられないって言われちゃって……。どうしても劉屋の料理を作りたいのなら南陽の本店で修行させて貰えって教えてくださったんですけど、私、そんなに長い間一所に留まれないですし……」

「はぁ……」

「ここの劉屋にももう何度か頼んでるんですけど、やっぱり駄目で……。でもそうしたら常連さんの一人が、私が董卓様のお城でお世話になってるって知って教えてくれたんです。稟さんが常連さんで店主のおかみさんとも親しいって」


確かに私は自分の鼻血癖を治すための食事療法として、それに情報収集でもこの町の劉屋には頻繁に出入りしてますし、おかみさんとも親しくさせていただいてます。

そ、その…… 殿の嫁、として扱ってくださっているので。

それはさておき流琉、おそらく各地で相当頼み込んだのでしょう。

眼が、とても真剣です。


「駄目なら駄目で、諦めが付きます。味を門外不出にしていて勉強出来なかったお店は他にもいくつかありましたから。ですからお願いだけ、してみていただけませんか?」


私の独断で良いものならば結果はともかくとしても紹介くらいはしてあげたいのですが……


「……一日、待っていただけますか?」


ここはやはり、 殿にお伺いを立てて置くべきですね。

あのお店には 殿の秘密も隠されていますし、流琉は今はまだ仲間にはなっていただけないですから。

それでも彼女には恩がありますし、ね。


「少し心当たりをあたってみますので」

「じゃ、じゃあっ!?」

「結果までは保障出来かねますが、明日には分かると思いますので。結果が分かり次第お伝えします」

「あ、ありがとうございます稟さんっ! よろしくお願いしますっ!」


流琉にそういい、その晩。


「―――という訳なのですがぁぁんっ! い、いかが致しましょうぅぅあぁっ! っはぁっ! す、すごいぃぃぃ♪」

「いいよ。流琉ちゃんには世話になったし、劉屋の料理だってそう難しいもんじゃないしな」


日課の按摩を受けながら 殿に流琉の件でお伺いを立ててみると、意外にもあっさりと了承を得られました。


「ただ、俺と劉屋の関係は当たり障りのない程度で頼む。店の皆にも言って、俺が劉屋の創設者扱いされてる事と情報収集の件だけは漏れないように」

「わかっています。しかし情報収集の件は私も賛成ですが、仮に 殿が劉屋の創設者と知ったからといって、流琉はそれを気安く吹聴するような娘ではないと思いますがぁぁぁんっ♪」

「そ、そうだぞ ? 流琉はまだ幼い所があるが立派な考えを持つ娘だ」


何時からかこの按摩の時間に一緒に 殿の部屋にいるようになった葉殿も私に賛成のようで、用心深い 殿に首を傾げています。

そんな私達に 殿は、苦笑しながら教えてくださいました。


「信じていないわけじゃない。あの娘は確かにいい娘だ。でも、仲間じゃない。だからもしかしたら流琉ちゃんはこれから先、他の誰かに仕官するかもしれないんだ。あの娘は頭もいい娘だから、もしかしたら俺の劉屋との関わりから情報収集の件に気づいてしまうかもしれない。もしそうなってしまったら彼女はとても苦しむだろうと、俺は思ってる」

「苦しむ、とは?」

「例えば、流琉ちゃんの仕えた勢力と俺達が敵対する。と、劉屋が俺と繋がっている事を知ってしまった流琉ちゃんは、その事実を自分の主に伝えるべきかどうか葛藤するだろう。俺達を売って主に尽くせば自分の立ち位置は確保出来るだろう。でもあの娘はそんな事をして喜べるような性格をしていない。かといって黙ったままでいればそこでの仲間との隔たりのようなものが出来上がってしまうし、それが原因になって俺達が勝ってしまったらあの娘はそれに思い悩むだろう。当然、伝えた結果として俺達が負け、最悪死ぬ事にでもなったら結果は同じ」

「ふむ……そうかもしれんな」

「だから、流琉ちゃんには枷をかけたくないんだ。今俺の事情を知ったら、将来流琉ちゃんが笑えなくなるかもしれない。なら、知らせる必要はないだろ? 俺だって仲間内でさえ劉屋で俺が何をしているかを全部は話してないんだし、第一教えた所で誰も幸せにならない」

「……その時の流琉の主人は幸せかもしれませんよ?」

「俺が言う誰も、っていうのは俺が特別だと思っている人間は誰もって意味だよ稟。分かってるだろ?」

「ええ。分かっていて聞きました」


少しくらい良いではありませんか。

出会って少ししか経ってないのに 殿にそこまで心配していただけている流琉に、その……少し嫉妬してしまったんです。

まぁ、 殿のお考えも分かってはいたんですが……


「ん? 分かっていたなら何故聞いたのだ? 私でも分かる事なのにわざわざ」


くっ……葉、貴女偶に悪意がまったくないのにそういった答えづらい質問をしますね?


「ち、ちょっとした言葉遊びですよ」

「ふむ、そうか。私もそれくらい高尚な遊びがしてみたいものだな」


……そして卑怯にもごまかした私の良心を抉るような一言を…… 殿、その笑顔は分かっておられますね?って!?


「はぁぁぁんっ♪ 、どのぉぉっ♪ そこっ、そこは弱いのっ、ごぞっ、ご存知のはずぅぅぅあぁぁぁぁっ♪ だ、駄目ですぅぅぅ♪」

「ん? 何か不満そうな顔をしてたから手を休めるなって言われてるのかと思った」


わ、私がそんな事言わないと分かっていてそんな……


「も、申し訳ありません。あやっ、謝りますから、そ、その……」

「悪い、冗談だ」


……分かってはいました。いましたけど……かなわないですね、この方には。


「な、なぁ稟。その按摩、そ、そんなに気持ちの良いものなのか?」

「私のこれは、んっ、血の巡りの改善の為に必要なものなのですがぁぁっ♪ そ、そう聞かれますとこれは……」

「……これは?」

「んぁっ♪ け、健全な、か、快楽の渦、ですぅ♪」

「葉、興味があるならやってあげるよ。稟ばかりで不公平だしな。ただし稟ほどの効果は期待しないで欲しい」

「わ、分かった。よろしく頼む」


こうしてこの日から葉もまた、 殿の按摩による快楽の渦に呑まれました。


「だっ、駄目だ っ♪ そこっ、そこはぁぁぁぁぁぁっっっ♪ こ、腰がっ♪ 腰が浮くぅぅぅぅぅっはぁっ♪」


ま、まぁその後は二人分の嬌声を聞き続けていた 殿もさすがに我慢の限界だったのか……さ、三人で……あ、後はご想像にお任せしま……ぷあっ!































「………………へ?」

「これまでの経緯を考えるとそうなってしまうのも分からなくはありませんが、事実です」

「ほ……本当に、ですか?」

「ええ、本当です」


信じられない事が、本当に起こりました。

昨日、稟さんにちょっと強引に劉屋の店主さんに働かせてもらえないかお願いしていただく約束を取り付けたんですけど、まさか……


「貴女が近々ここを発たなければいけない事を踏まえて一応ではありますが、劉屋の厨房で勉強させていただける約束を取り付けてきました」


本当に働かせてもらえるなんて。

もういろんな町の劉屋で断られてしまって、ここでも何回か駄目って言われてしまってるので……夢のようです。

稟さんが少し疲れて見えるのは……もしかしてよほど尽力してくださったのでしょうか?

でも、肌の艶はいいし……なんでだろう?

とにかく逸る気持ちを抑えられなくて稟さんを引っ張るようにして劉屋に向かった私を出迎えてくれたのは、常連さんも教えてくれなかった私が受け入れてもらえた本当の理由でした。


「そうですか、お嬢ちゃんが典韋ちゃん。じゃあ改めて、何度か断らせてもらったけどそれはもうなしにして、とりあえずうちの厨房で勉強していってもらうよ」

「あ、は、はい。よろしくお願いします」

「それにしても典韋ちゃん、郭嘉さんと知り合いだったならもっと早く言ってくれれば良かったのに。あたしはこの人の旦那様に御恩があるからね」


あれ? 稟さんが親しいって聞いてたはずなんですけど……違うんでしょうか?


「実は以前 殿が、酔っ払ってこの店に入ってきて難癖をつけた客から店主を助けた事がありまして。それ以来こちらの店主は 殿を……言葉は少しおかしいかもしれませんが、崇拝してしまっているところがあるんですよ」

「そ、そんな大げさなもんじゃありませんよ郭嘉さん。お若いのに落ち着いてて、私みたいなおばちゃんをお姉さんなんて呼んでくれるもんだから……年甲斐もなく憧れてるんです」

「そういった経緯で、私も 殿の、そ、その……つ、妻としてっ! こ、懇意にさせて頂いているというわけです」


へぇ、なるほど。

確かに 様、大人っぽくて頼りがいがありそうな方ですから。


「まぁ常連なのはその前からですが」

「あ、それも本当だったんですね」

「さ、無駄話は終わりにしましょう。典韋ちゃん、厨房に入るからには戦力として計算するから、まずは下拵えから教えてもらってね」

「あ、はいっ! よろしくお願いしますっ!」


こうして私は劉屋の厨房で働かせてもらえるようになったんです。

それからはもう、驚きの連続でした。


「あぁ典韋ちゃん、そのくず野菜はこっちね。細かく叩いてくれる?」

「へ? あ、はい」

「そうそう。さすがに手際がいいわね……と、はいそれくらい。で、こっちの叩いた鶏肉とあわせて、あと生姜と片栗粉ね。よぉく練り合わせると……」

「わぁっ! これ、お店のお汁に入ってる肉団子っ! こうやってつくってたんですか」

「そ。お汁に入れてもいいし、甘辛い醤油のタレを作って焼いても美味しいらしいわよ? うちは丼専門だから商品としては出さないけどね」


お汁の肉団子もまったく無駄なく、それでいてとてもいい味に仕上げてますし、


「はい典韋ちゃん駄目〜。それじゃ普通の麻婆よ? 丼にのせる時は味は少し濃く、とろみは強くよ。お客さんは麻婆豆腐として食べるんじゃないの。麻婆丼を食べにきてるんだから、ご飯とあわせて一つの料理に仕上げるの」

「はいっ! すみませんっ!」

「親子丼の卵は溶きすぎちゃ駄目よっ! そう、軽くね。卵は流し込んだら混ぜないで、そのまま半熟にするの。汁気が少なすぎると鍋に卵が全部くっつくから注意してね」


お料理すべてが丼のご飯の上に乗せる事を前提で計算して作られてます。

そして何よりもすごいのが、殆どが予め用意してあるんです。

さっきの親子丼は鳥と玉葱がもうお汁で煮込まれてて、あとは注文された時に小鍋によそって溶き卵を加えれば作れますし、他のお料理にしても頻繁に使われる材料は常に当番の人が残りの量を見ながら随時切り続けています。

叉焼丼っていう料理に関してはもう全部最初から作ってあってそれをご飯に乗っけるだけ。

とにかく手軽に、無駄なく、それでいて一度厨房に入れば常に同じ味を誰もが出せるように工夫がされていました。

店主さんの一番の仕事は先に用意してあるものの味をいつも一定に保つ事なんだそうです。

それを使えば誰もが料理を出せるけど、その味は店主さんだけが本店で修行してきていて知っているそうで。

そんな中仕込みから見させていただいている事はとても凄い事なんだと、同じ厨房で働く皆さんから言われました。

でもそんな中で一つだけ、どうしても仕込みを見せてもらえないものがあります。

それが……


「この大きいお鍋、牛丼のお肉ですよね?」

「そうなんだけど、ごめんね。これだけは本当に、劉屋の看板を継ぐ覚悟がある人じゃないと仕込みも見せられないのよ。本店で修行してた時に皆、これだけは言いつけられてるから」

「そうなんですか。凄く美味しいから興味があったんですけど」


そう。このお店の看板であり定番でもある、牛丼。

数あるお料理の中でも一番安くて、でも誰もが美味しいって言える丼なんです。

劉屋の本店は最初これだけで商売をしていたって話もあるみたいで、本当に文字どおり“看板”みたいです。

残念ですけど、無理を聞いてもらってここで働かせてもらってる以上は商売の邪魔になってしまうような事はなるべく避けたいですから、諦めます。

でも、色んな事が学べてすっごく楽しいですから……


「はいっ、お待たせしましたっ! 牛丼と親子丼ですっ!」


せっかく作っていただいた機会を無駄にしないように、頑張りますっ!





























「―――っ!? これは……ちょっと不味いか」


流琉ちゃんが天水に来て数日。

つかの間の平和だとは分かってましたけど、本当につかの間だったみたいです。

俺達が戻ってきてすぐ黄巾党の一件、“黄巾の乱”は収束。

官軍ではなく袁紹や曹操をはじめとした連合軍によって本隊を討伐され、首謀者とされている張三姉妹は曹操軍に討ち取られたとか。

でも陳留方面からの劉屋情報でその後その三姉妹に似た娘達が町で目撃されてるって報告があったし、実際はたぶん曹操さんが極秘に捕らえて何かの役に立てようとしてるんだと思います。

稟の話じゃ彼女達の歌を使って徴兵なり兵達や統治する町や村の慰撫なり出来る事は山ほどあるって言ってたし、たぶんそういう事をさせる交換条件として助けたとかなんでしょうね。

一度しか会った事はないけど曹操さん、なんか抜け目なさそうだったし。

後、本隊討伐に雪蓮や美羽ちゃんも加わってたらしい。なんでも一番手柄だったとか。

加えて七乃と蓮華から報告の竹簡が届いて、白蓮とも知り合ったって言ってました。

なんか蓮華と美羽ちゃんが俺を兄と呼ぶ白蓮に食って掛かったみたいで、回りから袁術軍と孫策軍の本当の関係性を隠すのに苦労したって七乃が愚痴混じりな感じにしたためてました。

そして蓮華からのにはその事に関する謝罪文。律儀な娘です、ホント。

で、まぁ大陸の情勢はそんな感じなんですが、俺が今見てる報告書はそれとは別件。

何進殿の話を聞いてから洛陽の劉屋からの定期連絡の感覚を狭めていたんですけど……


「……まさかその一回目であたりが引けるとは」


いや、この場合ははずれですかね?


「稟、これを」


私室でいつも一緒に定期連絡に目を通す稟に竹簡を手渡すと、俺よりも数倍早く読み上げて視線を俺に戻します。

いつもなら目が合うと少し照れくさいんですけど、今回はそんな事言ってられません。


「葉に知らせてきます」

「いや、ここで説明するから連れて来て」

「はい」


程なく葉が、稟の様子から只事ではない事を感じ取ったのか神妙な面持ちでやってきました。

すぐに報告を掻い摘んで聞かせると、


「……で、どうするんだ?」


葉は腕を組んだまま静かに、俺たちにそう尋ねました。

あれ? もう少し熱くなってすぐに洛陽に向かうとか言い出すと思ったから報告せずにここにつれてきてもらったんですけど……


「葉、どうしました? 貴女はもう少し血気盛な方だったと思ったのですが」


と、稟が俺と同じ疑問に当たったのか首を傾げてます。

すると、


「わかっている。だが先の行軍の際にもうそれが何の意味もなさない事くらいは学んださ。何を言っても私の意見は武人のものにしかならん。だから立場の問題や政の話になるのならば、私は と稟の意見に従うと決めたのだ。2人と一緒ならば、たとえ間違ったとしても悔いはないからな」


といい笑顔。

ここまで自分の“智”の部分を諦められてしまうのはいささか心配になります。

なります……けど…………正直、嬉しいです。

稟とは違った形ではありますし、別にそのつもりがないかもと疑ったりしてた訳じゃないですけど……それってつまり、俺と一蓮托生になってくれるって事ですよね。


「ありがとうございます。ならば 殿、急ぎこの話を月様と詠殿に」

「あぁ。さすがに静観するわけにはいかないしな。稟、お二人の執務室に急ごう。葉は霞と剛を呼んで」

「「はいっ(あぁっ)」」





























知らせには、こうありました。




























『洛陽、城内に不穏な空気あり。兵達からも“どちらにつく”などといった権力争いらしきものを連想させる言葉が漏れ聞こえてくる。何進様、張譲様の名前が度々聞かれ、他にも近々丁原様が到着するなどという話もあり、何か大きな動きの前触れの兆し。店舗運営も危機の兆し』






























…………………………え? 経営の危機って…………………………マジで!?










inserted by FC2 system