「さ、さて皆さん。本日ここにお、お集まりいただきましたのは、ほっ他でもありません。きっき、来る乱世を前にしてもさっ最後の一線を中々踏み越えない我が家臣である……へぅぅ、え、詠ちゃぁぁんっ。何なのこの台本〜?」
「あっ!?
ゆ、月っ!? 駄目だってばっ!
折角なんだからもっと威厳を持って“暗躍してます”って感じを出さないとっ!」
「へぅ……む、無理だよぅ」
「いや、どーでもええけど詠?
そもそも“皆さん”ゆーたってここにおるの、ウチ等3人だけやよ? って、そう考えるとちょっと凄いな?
残り半分が今色恋沙汰の真っ最中て」
「しかもその内の一人があの葉…魂の底から武人って感じの華雄将軍よ?
男勝りっていうよりも寧ろ間違って女に生まれました、みたいなあの華雄将軍が、惚れた男に真名までもらって今じゃすっかり女の子してるんだもん」
「へぅぅ……駄目だよ詠ちゃん、そんな事言っちゃ。今の葉さん、幸せそうで私は嬉しいよ?」
「そっ、そりゃあ私だって前の“華雄”より今の“葉”の方が好きよ?
でも私達の中でまさか華雄が一番初めに色恋沙汰なんて予想だにしてなかったもの」
「しかも結果がどうあれ形が横恋慕たぁ、昔を知ってるウチ等にしてみたら“まさかあの華雄が?”やろ」
「し、霞さんまで……幸せなのはいいことですよぅ」
「せや。幸せなんはエエ事や。でも……」
「そうっ!
肝心の
が今一歩煮え切らない所為で葉ばかりか昔から一緒にいる稟まで“婚約者”扱いどまりなのっ!
もう互いに気持ちは確かめ合ってるっていうのにこれは一体どういう事っ!?」
「へぅっ!? で、でもそれは……
さんが真面目に……」
「せや!
アイツが真面目に考えて、いつ死ぬかも分からんのに最後の一線踏み越えてええんかって思っとるだろうってのは皆わかっとる。せやから皆今まで急かすような真似はせんかったけど……」
「アイツは、それが葉と稟にも当てはまる事を忘れてるのよ。いえ、考えないようにしてるのかもしれない。男としては無責任な事はしたくないのかもしれないけど……でももしあの三人の中の誰かがそうなった時、好き合った相手に、そ、その……だっだだ抱い、じゃなくて、あ、愛してもらってないなんて……悲しすぎるじゃない」
「……え、詠ちゃん……大胆」
「なっ!?
ゆ、月ぇ〜」
「まぁ詠が大胆なのはともかくそこで、や。なんでも
、月に許可が得られたら結婚するってのには同意しとったんやて。アイツから言ってきてへんのにこういうんはちょっと卑怯かも知れんけど……どうせやから月が許可出すんと同時に盛大に祝ってやろうやないか!」
「実際に婚儀となるとお嫁さんが二人っていうのはちょっと問題はあるんだけど……でも二人は多分、形だけでも十分喜んでくれるでしょうから……月がきちんと許可をだして、あたし達が証人になる。そうしたら何とかして三人を同じ部屋で生活させるところまで一気に持っていくわ。せめて形だけでも、きちんと夫婦にしてやるわよ!
そうすれば、そ、その……夜だって……」
「あぁ好き合った相手と水入らずの生活や。さすがに
も覚悟決めるやろ。 どや、月? やったらんか?」
「霞さん……詠ちゃん…………わかりました。
さんに女の子の……葉さんと稟さんにとっての本当の幸せが何なのか、ちゃんと教えて上げましょう」
「……はぁ……」
いきなりため息でのご挨拶で失礼します。劉封です。
蓮華と思春が呉に帰って、暫くいつもどおりの毎日を送れていました。
自分の隊の調練して、書簡片付けて……勿論、好き合った二人と過ごす時もこれまでより距離が縮まった感じがしてらしくなく少し舞い上がってたり。
そんな日々を過ごしながら、月様にどう結婚の話を切り出すかと悩んでいた矢先でした。
「
さん、武威まで行って馬騰さんに会ってきて下さい」
月様からそんな仕事を言い渡されました。
距離にすればそんなに遠くはないんですけど、そんなにすぐには帰れないみたいで。
「
には今後の事を考えて、五胡が攻めてきた時に備えて馬騰殿の軍ときちんと協力体制が取れるように話を詰めてきてほしいの。ついでにアンタはまだ五胡と戦った事ないし、情報もらって来たらいいわ」
そんな事を言っていた詠殿に補足してくださった月様の話によると、どうやら馬騰殿は武一辺倒な方らしく文官の回りくどい交渉事が大嫌いなんだとか。
で、現在いる武官三人の中で誰が一番無難に交渉事をこなせるかと月様、詠殿と稟で話し合った結果、俺が二票を集めて見事当選、という流れだったらしい。
ちなみに俺に入れなかったのは稟。
らしくなく私情で、俺に行ってほしくなかったからって恥ずかしそうに言ってました。
葉は葉で自分も付いていくと散々詠殿に直訴していたらしく。
……男冥利に尽きます、ホント。
「まぁ、ウダウダ言ってもしかたない。月様にどう切り出すか決まってなかったんだし、もう一度良く考えるいい機会だと思っておこう」
まぁ、考え直す事はないですけどね……考え直される事はあるかもですけど。
このご時世いつ誰がどうなるかわからないですし、俺は自力がそんなに強くないのでやられてしまう事もあるかもしれません。
ならせめて、好きな女の子とはなるべく長く一緒にいたい。
俺が二人を好きで、二人が俺を好いてくれた証を刻みたいです……こんな事おおっぴらに言えないですけど。
二人に押し切られる前は、こんなご時世だし無責任な事は〜なんて考えてましたけど。
でももう覚悟は決まりましたし、後はやるだけです。
良しっ、決めました!
俺、帰ったら月様にきちんと話をとおします!
「さて、そうと決まればもう別に悩む事もない。全力で仕事やってやろうじゃないか」
こうして張り切って馬を走らせた俺は、浮かれてて一つ重要な事を忘れていました。
それは……
「……しまった。考え無しに走らせちゃったらもう武威が目の前だ…………………………夜なのに」
本来なら普通に馬に乗って何処かで一泊して、翌日の朝に着く計算だったのに張り切って走らせてしまったばっかりに予定よりも大分距離を稼いで……っていうかゴールに到達してしまいました。
日が落ちているのすら気付かないって、俺どれだけ夢中になってたんでしょうね?
まぁ、しょうがない。
こうなったらとりあえず城下の町で宿を探そう。
こんな時間じゃ交渉できるところは少ないだろうけど、まぁなかったらなかったでどっかの馬小屋とかにでも入り込んで一晩過ごさせてもらえばいいし。
それに……
―――――グゥゥゥゥ
「とりあえず、店が閉まらないうちに入って何か食べよう」
まずは空腹という敵を打ち倒す事から考えようと思います。
これだけ頑張ってしまって挙句一晩何も食べられないとかちょっとした拷問ですし、ここにも確か劉屋があったはず。
そうと決まれば、
「それじゃあ、もうちょっとだけ頑張ってくれ」
通じるとは思わないけど馬を一撫でして、
「よし、行こう!」
「さってと、今日も皆頑張ってるねぇ」
たぁ言っても、もう日は落ちて一日も終わりに向かって一直線だけどな。
おっと、すまないね。アタシは馬騰、字は寿成。ここ武威を拠点としている一太守で、周りのいくつかの街を纏め上げてるもんだよ。
昔騎馬隊率いて無茶やってた頃の名残なのか、それともこんな可愛げのない喋り方の所為か、周りの街を治めてる太守連中の何人かもあたしの事“姐御”だのなんだの呼んでアタシを持ち上げやがって、いつの間にか涼州連合なんてのの纏め役なんて面倒まで押し付けられちまったけどさ。
でも、そんなのも悪くないよ。
自分の街の奴等が笑って生きてるのを見ると『アタシがしっかりやってやらないと』なんて柄にもなく思ったりしちまうし、同じように周りの奴等が頼ってくれるのもアタシのやり方が認められてるようで悪い気はしないしね。
そんなこんなで最近はめっきり忙しくなっちまって娘の翠にも鍛錬以外じゃあんまり構ってやれなくなっちまったけど、アイツは誰かさんに似て真っ直ぐに育ちやがった。
まだまだ小娘だけどもう軽く捻ってやるつもりじゃこっちがやられちまうくらいになってるし、その真っ直ぐな心根のお陰か家臣連中もアイツがアタシの跡継ぎって事に何の文句もないらしい。
ったく、アタシゃあまだ現役だっての。
だがまぁ……
「ま、幸せなこった。これはこれで」
娘が認められてるってのは、親としては素直に嬉しいけどね。
今現役でお前等取りまとめてるアタシに対する気遣いはないのかって言ってやりたくなるけど。
それもまた、このご時世じゃ贅沢ってもんかね?
「っと、すまないね」
なんて考え事してたら誰かと肩があたっちまったよ。
相手も謝って頭下げながら歩いてったけど……って、もうこんなに暗くなってたのかい。
そりゃ相手の顔なんか見えないはずだよ。
まぁアタシの場合見られてたらそれはそれで面倒事になってたんだけど。
「じゃ、さっさと飯食って帰るか。ったく翠の奴、誘ったって罰は当たらんだろうに蒲公英と先にさっさと食いにいきやがって……反抗期か?」
なんて馬鹿な事を考えながらいつもの飯屋まであと少しとなった時だった。
「テメェもういっぺん言ってみやがれっ!!!!」
「……ん?
なんだ?」
血の気の多い怒鳴り声がアタシの向かってた店から聞こえてきて、
「何度でも言ってやらぁっ!!!!
テメェは槍の使い方がなっちゃいねぇってんだっ!!!!」
「んだとこのやろぉ……表出やがれっ!!!!
俺の槍捌きみせてやらぁっ!!!!」
「上等だ馬鹿野郎っ!
返り討ちにしてやんよっ!!!!」
程なく二人の男が店から飛び出して……ってウチの兵士かいありゃあ?
ったく、基本的にはイイ奴等ばっかりなんだけどねぇ。
いかんせん血の気が多い……って、こりゃアタシがテッペンだからか?
自分の武に自信を持つのは悪いこっちゃないけど……
「さすがに本気で槍振り回すのは拙いぞ、おい。アタシの民に怪我人が出るだろうが」
ちょっと熱くなりすぎだねぇ。
「喧嘩を見るのは好きなんだけど……仕方ない、止めるか」
そう思ってアタシが店の入り口で槍を振り回す二人の頭に拳骨でもくれてやろうかと思って出て行こうとした時だった。
「お、おいアンタッ!?」
少しボサっとした頭の全体的に地味目な男が、ゆったりと、それでいて真っ直ぐに、アタシと反対側から店に向かって歩いていくのが見えた。
慌てて声をかけてみたけど、その男はまったく気にせずにそのまま小競り合いしている二人とどんどん距離をつめていく。
そして……
「兄さん方、店の前で迷惑だよ。見たところ馬騰殿の軍の兵隊さんなんだろうけど、ここを護ってる人が護るべき人達に迷惑かけてちゃ馬騰殿の顔に泥塗っちゃうよ。それじゃ本末転倒じゃないか?」
完全に頭に血が上りきっていたであろう二人に、まるで天気の話でもしてるんじゃないかってくらいに普通に話しかけやがった。
そんなまったく動じていない態度に思わず唖然としちまったが、どうやらそれはアタシだけじゃなかったようだな。
「あ?
あ、あぁ……そうか、そうだな……すまなかった。お前も、勘弁してくれ」
「あ、い、いや……俺も言い方が悪かった。兄さん、迷惑かけたな。皆も」
「いや、気にしないでいいよ。皆さんも、二人共少し熱くなってただけみたいだから気にしないでやってください」
男は淡々とそう言って、店の暖簾を潜っていった。
「なんか……迷惑かけたな、皆」
「すまなかった」
「あ、あぁ、別にいいさ。少し刺激があったくらいのほうが街は活気付くしよ?」
「そ、そうだとも。別に誰が怪我したわけでもねぇし、普段は護ってもらってるんだ。小競り合いぐらい酒の肴にしてこそ西涼人ってな!」
すっかり頭の冷えたらしい二人も取り囲んでいた野次馬達に頭を下げてやがった。
謝られた皆も戸惑いこそしていたが笑って許していたし、まぁここは……
「よう、お前等」
「は……えっ!?
ばっ「しーっ!
黙ってやがれ」…し、失礼致しました」
「あ、あの……今の一件は……」
「見てた。見てたが、あの兄さんが上手く纏めてくれたからな。今回は……」
両拳を二人の脳天に振り下ろす。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」」
ははっ!
悲鳴も声にならねぇか!
「これで不問にしといてやるよ。詳しい事情は知らねぇけど、あんまり皆に迷惑かけんなよ?」
「「す、すみませんでしたっ!」」
「じゃあお代払って帰りな。後あんな事の後だ。今日は呑むなよ?」
「「はっ!」」
「おしっ!
じゃあな」
とりあえず最初の目的だった拳骨はおとしてやんないとなって事で、一発ずつ。
さってと、それじゃあ……
「よう兄さん、さっきはウチのモンが悪かったな」
あ〜……えっと……どなたでしょう、この美人さん。
何とか閉店前に武威の劉屋にたどり着いた俺は、店の前で起こってたいざこざに少しだけ口出しして治めてもらって、さぁ食事と最近自分の中で定番になりつつある麻婆丼ニンニク多め……にしようとして明日は人に会わないといけない事を思い出して泣く泣く普通のを注文し、後は待つばかり……だったのですが……
「おう姉ちゃん!
アタシにもこの兄ちゃんと同じのくれ!
特盛でなっ!」
この姐御、何故か入ってくるなり明らかに俺と認識して相席してきました。
姐御ってのはあくまでもこの人の雰囲気ですが、なんとなく自分の直感は正しいと思います。
「でだ、さっき店の前で喧嘩してた奴等なんだが、アタシんトコの兵隊なんだよ。ったく、民に迷惑かけんなってあれほど言ってんのに一度頭に血が上るという事なんか聞きゃしねぇ」
「はぁ、それはご苦労をなさって……?」
……ん?
今この人、“アタシんトコの兵隊”って言いましたよね?
あの兵隊さん達は着てるものから察するに馬騰殿の軍の人達で、その人達をそう呼ぶって事は……
「……もしかして」
この姐御って感じの、一見清楚っぽくも見えなくないけどガッツリスリットの入ったロングスカートをスケ番の如く履きこなすこのソバージュ美人さんが……
「馬騰殿、ですか?」
「ん?
なんだいアタシの事知ってんのかい?」
……やっぱり。
え〜っと、どうしましょうか?
ここで名乗って用件を言っても公的な席じゃないから駄目そうですし……いや、まぁ馬騰殿の性格が調べのとおりならそんな事気にしないかもしれませんけど……あぁ、でも飯時に無粋だとは思われるかも知れないですね。
「あん?
どうしたんだい?」
でも……ここで黙ってたら明日あった時に不味い気がする。
この人、何よりも嘘とか隠し事が嫌いそうですし。
じゃあ、
「え〜っと、実は俺、劉封と申しまして……董卓様より派遣されてきたものです」
とりあえず身分を隠すのは無しにしておきましょう。
ってあれ?
馬騰殿は何をきょとんと……
「……あ、あぁっ! 董卓ちゃんトコの奴かっ!
確かにそんな書状が早馬で届いてた届いてたっ!」
……あぁ、そうですか。
今のはいわゆる、忘れてた人の定番リアクションってやつですね?
しかし今の俺は、いわゆる公人と言うやつですので、ここは流していきたいと思います。
「はい。明日ご挨拶に伺う予定でしたが、思っていたよりも早くついてしまって。食事を摂ってから宿を探してと思っていたところに……」
「アタシの部下共の小競り合いか。悪かったねそりゃ」
「いえ。何も害はありませんでしたし、御気になさらないで下さい」
そんな話をしている間に麻婆丼が、馬騰殿の特盛と一緒に到着。
速さが売りの一つなのはここまで来ても変わりませんね。
運んできてくれたのは俺に気付いたここの店主のおっちゃんでしたが、ここを治めている人の目の前でこの街の調査報告なんか聞けるわけもないのでひとまず保留。
おっちゃんも空気読んでくれて助かりました。
まぁ、仕事はなくしたくないでしょうしね。
「お、来た来た。アタシ実はこれ大好物でな?
普通に麻婆を飯にかけても同じ味にならねぇんだよ。他のもにたようなもんでさ。タダ飯にかけるだけじゃなくそうして食べて最高の状態になるように計算されてんだ。考えた奴ぁきっと天才だぜ?」
そういいながら物凄い勢いで麻婆丼を胃に収めていく馬騰殿。
すみません。考えた人は知りませんけど、ここで再現してはやらせた人間は目の前に座ってます。
それもなんとか母さんを料理させない為と、各地に店を出させて情報収集するっていう結構不純な目的の為でした。
とはまぁ言えないので、俺もひとまず食事開始。
うん。味付けが本店より少し辛めだ。
多分この土地の人達に合わせたか、寒くなりがちな気候の所為かな?
一応何処でも同じ味っていうのが売りなんだけど……どうしようか。
……ん?
俺にとっては情報源だからその仕事を疎かにされなければ別にいいのか?
あ、いやでもそれが元で親父殿と母様のところに苦情とかいっても困るし…………うん。まぁこれ以上大きな味の変更はしないように釘だけさしておくか。
俺にとっては情報源でも親父殿と母様にとっては仕事の部下のようなもんですしね。
あんまり大幅な味の変更されると暖簾分けた意味が薄くなるし、でもここのお客のニーズってのも大切なんでしょうしね。
「なぁおい劉封、それ食わないの?」
「っと、失礼しました。こんな所で明日お目にかかるはずの人とあってしまってこの先どうするかを考えていまして」
「そか。まぁいいからそれ食えよ。部下が迷惑かけたしここはアタシに奢らせてくれな?」
「お気遣いすみません。お言葉に甘えさせていただきます」
「ははっ!
お前いいなっ! よしっ! どうせ明日から暫くウチに来る事になるんだし、もう今晩から部屋用意してやるからこいっ!
なっ?」
ここは断るのは失礼と思って好意を受ける事にすると、それがまた馬騰殿のお気に召したらしくあれよあれよという間に馬騰殿の城でお世話になる事になってしまいました。
まぁここで何か変な事言うと俺と劉屋の繋がりがバレちゃうしどうしようもなかったんですけど。
急かす馬騰殿にあおられて食事を済ませると、そのまま何故か二件目へ。
え?
なに呑むんですか?
明日は真面目な話なんですけど……と、思ってはいたのですが……
「さぁ、大人の時間だ。最近は娘とか部下との馬鹿騒ぎみたいな呑み方しかしてないからな。悪いけど、付き合ってくれ」
大人の女性の妖艶な笑みにクラッときてしまって結局お付き合いする事に。
い、いえっ!
もちろん邪な気持ちなんかありませんよっ!?
俺には稟と葉がいるんだし、この仕事が終わったらいよいよ月様にお許しを貰わないといけないんですから。
でもまぁ馬騰殿もゆっくりしたい事もあるんでしょうし……
「さ、どうぞ。お酌させていただきます」
これくらいは大目に見てくれ、稟と葉。
俺、帰ったらきちんとけじめつけるから……待っててくれ。
「あぁ、ちなみにアタシの真名は蒼(そう)ってんだ。二人きりの酒の席でいつまでも堅苦しいのは無粋ってもんだろ」
…………え?
そんな理由で真名預けられるんですか? 酒を美味しく呑む為に?
「お前の真名、教えなよ……劉封」
……あれ?
俺今ひょっとして獲物を見る目で見られてます?
「はぁ……何かこう、物足りないな稟」
「そうですね。まだ発たれたばかりですから戻られるまではまだまだ時間があるのですが」
「はぁ……逢いたいな」
「……そうですね」
「「早く帰って来い(来て下さい)、
(殿)」」
早く……早く帰りたいよ、稟、葉……
出来れば、俺がクわれる前に…………ホント。