ここ、女子塾生しかいません。

……え? 俺もう言ってました?

盧植先生の痴女的奇行のくだり? ……あぁ、たしかに。

じゃあ何故ここに男がいないのかも? ……あ、それは言ってない?

じゃあ言いましょう。先生が食っちゃうから。以上。

……羨ましいと思った貴方、いつでも来て下さい。

というか俺が代わりますんで、ぜひご一報ください。

俺も男なんで“モテたい”って思うことは多々ありますけど……ヤれりゃ何でもいいとは思いませんから。















まぁそんなこんなで俺が入塾してから数年が経ちました。

かなりまた端折りましたが、基本的にはたいして変わりのない毎日だったのであえてお伝えするほどでもないかと思います。

盧植先生に襲われたり痴女に襲われたり肉感的なおねいさんに襲われたり……こんな感じです。

全部同一人物なのが頭の痛いところですが。

後最近、そういった誘惑に気持ちはともかく身体が勝手に反応をしめし始めてしまって……

肉体年齢が中学生になりましたからね。

ホント、勘弁してほしいです。

だって間違って他の塾生達の前で襲われて身体が反応しているのを見られてしまったら……多分俺、ここにいられなくなるか彼女達の餌食になるかの二択だと思います。

……若干後者の可能性のほうが高いのが本気で怖いです。

そんなちょっと羨ましいとか思われそうな疲れる毎日を送っていたある日……

















「…………嘘だろ?」


まさかまさかとは思っていた事が、ついに現実となって俺の前に現れました。


「私、姓は劉、名は備、字は玄徳って言います。皆さん、よろしくお願いしますっ」
















盧植先生の私塾に劉備が入った。

しかも、俺の年下の女の子として…………巨乳の。

その歳でその胸のサイズって、最早化け物なんじゃないかと俺は思う。

さすが仁徳の人と言われてただけあってなんかこう、他の女の子達とは明らかに違ったオーラみたいなものも感じるし……


「でも、なぁ」


極度の天然でした。

普通天然って言われるとこう、すっ呆けた言動とか底抜けに明るいとかそういった感じをイメージする事が多いと思います。

でも実は天然ってのには一つ、愛される感じのキャラクターの裏に隠れた要素があるんです。強かさっていう。

天然ってのは本当に天然だから、自分ではそうと気づかず、何の計算もせずに何の悪意もなく、自分の都合のいいように事を運んでしまう。

大体の天然さんはそこに一般常識と経験が重なってきて歯止めをかけるんだけど……


「ありがとうっ」

「う、うん……まぁいいか」


子供ゆえの無邪気さなのか、はたまた劉備自身の性格なのか。

彼女はそうやって人の和に滑り込むように入り、済し崩し的に自分の要求を通してしまってます。

基本的に彼女は皆仲良く、皆笑っていてほしいという理想の元に動いているので人畜無害風ではあるし、事実少々の強引さに目を瞑れば彼女はとても良く出来た“愛される娘”なんですけどね。

でも……


「……史実とか演義の男の劉備がどんな人だったか知らないけど、この娘と義理の家族ってのは御免被りたい」


ホント、悪い娘じゃないんです。

誰にでも分け隔てなく優しいし、愛嬌もあってカリスマもある、ともう学園のアイドルとか呼ばれちゃいそうな美少女なんですけど……

なんていうのか…………疲れるんです、こういう娘。

いつの間にか自分のペースに周りを強制的に巻き込んでるような。分かります?

相手にそうと気づかせないで、いつの間にか相手の懐に潜り込んでる感じ。しかも許可付きで。

とまぁ、そんなこんなな劉備ちゃんですが、俺にとって一つ、とてつもなくいい事もしてくれました。

それは……


「うふっ♪ うふふふふっ♪ ねぇ〜え〜劉備ちゃぁ〜ん? 先生その胸のふかふか、ちょぉ〜っとだけでいいからもみもみしてみたいですわぁ♪」


先生の興味の対象が彼女に移ったこと。

おかげさまで最近は夜もぐっすり眠れてます。偶に劉備ちゃんの悲鳴は響き渡ってるけど。

っていうか先生、少年愛者じゃなくて両刀な子供愛好者だったんですね。

本当に……本当に助かりました。先生がバイセクシャルな人で。

どうぞそのままの道を進んでください。決して戻らずに。

で、話を劉備ちゃんに戻しますが、ここまでで分かるとおり彼女、ほとんどの人に好かれています。

上は盧植先生から下は……下って言っていいのか分からないけど、敷地内の掃除の人達まで。

でもそんな中にもやっぱり、特に同じ塾生の中には彼女を少し苦手に思ってる人もいるみたいで、その娘達は何故か皆俺の所にグチりにくるんです。相談ともいいます。

どうも俺が劉備ちゃんと一線引いてる感じが彼女を苦手に思ってる娘達には分かるみたいで……最初からそんな感じだった俺に話に来るんです。

どうやら子供達には一線引きながらも表面上問題のないように付き合うっていう大人のテクニックが凄いと感じるようで。大人のテクニックが。

大事な事なので二度言いました。

でもまさか、そんな娘達の中にこの人まで出てくるとは思ってませんでした。


「あの……劉封さんだ…ですよね? 私、公孫賛って言います。ちょっと話を聞きたくて……」
















白馬長史、公孫賛伯珪ですかっ!?
























どうも、私は公孫賛だ。字は伯珪。

私を生んでくれた母さんの身分が低いってだけで私を厄介者扱いする家が居心地悪くて、


「盧植先生って人の所に勉強にいきたい」


って言ったら諸手を挙げて金だけよこした父親に家を追い出されてここに来た。

別に怨むつもりはないよ。そういうご時勢だし、金くれただけでもありがたいくらいだ。

公孫の姓を名乗るなとも言われてないしな。

で、盧植先生の所に入塾させてもらった私は、いつかこの身一つで偉くなって、私のように身分一つで切り捨てられる人達でも力一つで評価していきたい。

そう思ってここに来たんだけど……


「……かなわないよなぁ、アレには」


私の視線の先にいるのは、劉備玄徳っていう胸の巨大な女の子。胸の巨大な。

私と同期で入塾した彼女は、いつの間にか皆の中心にいた。

別に私達同期の仲間の中心って意味じゃなくて、それこそ先輩達も含めた“皆”の中心。

たいした娘だと思う。

何故か惹きつけられるあの感じの魅力は私にはないし、なんかこう、助けてあげなくちゃと思わせるようなあの雰囲気も持ち合わせていない。

本当に、ちょっと天然が入ってるけど凄い、将来は大物になりそうな娘だと思った。

…………実際の塾内での成績とかはさておいて。

気が付いたら、皆が彼女を慕ってた。

盧植先生も、そんな彼女を物凄く高く評価していて、時には個人授業もしているらしい。

内容までは分からないけど、きっと普段よりも凄い事をやってるんだろう。

皆が劉備を慕ってて、皆が劉備に期待してて……そう思ってたんだけど……


「ま、そりゃそっか」


やっぱり、中にはそんな無条件の信頼も好意も向けられない人達がいた。

かく言う私も、皆が言ってるほど劉備って娘を信用出来ないでいる。ちょっと引いちゃうんだよな、どうしても……べっ、別に胸の圧迫感とか威圧感とかそんなんじゃないぞっ!?

……けふんっ……そ、そんな中で私は、少し前まで劉備を苦手として近寄ろうとしなかった娘達が彼女と普通に話しているのを目撃した。

理由を聞くと彼女達は、すんなりとある人物の名前を上げてこう言った。


「大人になった」


と。

……わ、分かってもらえるか!?

お、大人になるってのは、えっと、ようするに……アレ、だよな!?

た、確かにあの人がいるのはこんな環境だけど、でも……

だから私、確かめてみる事にした。実際のところはどうなのか、を。

そしてもし想像どおりなら止めて貰わないといけないし、そうじゃないのなら……私も知りたい。

大人になる、とはどういう事なのか。

だから……


「あの……劉封さんだ…ですよね? 私、公孫賛って言います。ちょっと話を聞きたくて……」


私は意を決して、声をかけた。






















「ほ、ホントにすいませんっ! ごめんなさいっ!」

「いいんだよ。誤解は解けたんだし、ね?」


…………なんか俺、殺されるかもとかちょっと思いました。

いやぁ、誤解で良かったですホント。誤解で良かった。

なんか俺、劉備ちゃんの事で相談に来た塾生の女の子達を、その、くっちゃったと勘違いされてたらしくて。

それもよりによって白馬長史、公孫賛伯珪殿にっ! まだちっさいけどっ!

最初から一応俺を目上の人間として立ててくれてたから良かったものの、これで同級とかだったらもう最初から斬りかかられてたかも。ちょっと大き目の剣がやけに鈍く光ってた気がします。

ともあれ、公孫賛ってたしか……実力で這い上がっていった人だったはず。

最後は逃げようとした兵達を処罰して人望を失った人って、たしかなんかの解説本に出てたけど……


「私の阿呆っ! よりによって劉封さんにこんな失礼な勘違いをっ――」


なんか、そんな感じまったくないです、この娘。

それどころか、涙目で自分の言動に激しく後悔してるところなんて可愛すぎて、俺が部下ならとても裏切ろうなんて思えない。

でもまぁ、いつまでもこうしてても何だから……


「とにかく、あの娘達には別に手を出してない。大体公孫賛ちゃんくらいの年齢の娘は、今後の成長とかそういった意味でも今の時期は、合意の上でもやらないほうがいいと思う」

「っっっ!?!? そっ…そうなんですか?」

「あ、あぁ、たぶん…………と、まぁそれは置いといて。とにかく皆には、劉備ちゃんと上手くやっていく為の助言をしただけだから。分かって貰えたよね?」

「はっはいっ! それはもうっ!」

「ならいいや。じゃあこれでいいのかな?」

「はいっ…………あ、いえ、それと……」


そう言って、今度は言いにくそうに俯き加減で俺を見る公孫賛ちゃん。

うん、その仕草はぶっちゃけ凶悪です。

今さっきお互いの為にコトに及ぶのはやめたほうがいいって言ったばかりなのに、ちょっと合意してくれたら歯止めが利かなくなりそうです。

……まぁ、合意してくれるわけないんですけどね。


「あ、あの……」


でもまぁせめて、これくらいは。


「その前に、公孫賛ちゃん」

「なん……はい?」

「その口調、元に戻して。俺が年上だからって丁寧に話してくれてるんだろうけど、ところどころで普段の喋り方が出掛かってるから」


さっきから気になってたんだ。

っていうかね、ぶっちゃけ……


「……そ、それじゃあ失礼して……こんなもんだけど、いいか?」


……うん。やっぱりその元気娘っぽい鋭い目とポニテには、無理やりな丁寧語よりボーイッシュな感じのほうがいいでしょ。

……ん? 無理やりな丁寧語もありっちゃあり? まぁね。

でもこれは単に嗜好の問題って事で。


「で、なんだけどさ劉封さん…………皆に教えた事、私にも教えてくれないか?」


……おやまぁ。でも……


「……いいけどさ、公孫賛ちゃん。別に公孫賛ちゃんには必要ないと思うよ? だって君、出来てるもん」

「……へ?」

「俺が教えたのはね、ただいつも劉備ちゃんと距離を保って話せばいいってだけ」

「……距離?」


ん? あれ? この娘は知っててやってるんだと思ってたんだけど?

それとも知らない内にそういうテクニックを身に着けたのかな?


「話してる時少し距離を開けてるとね、自然と周りの人達の表情が目に入ってくるんだ。だから劉備ちゃんと話してても常に、他の皆がどういう感じで話を聞いてるかが分かる。そうするとその娘達と比べて、自分はどういう風に彼女の話を聞いてるかが客観的に……自分はどうなの?って気持ちになれるんだ」

「……あ〜」


お、分かったみたい。


「そうしてるとさ、偶に断りづらいお願いとかあっても皆がそれをどう思ってるか、とか見えるでしょ? それに距離が開いてる分、少し“ごめんなさい”って言いやすくなるんだ。不思議だよね」

「……お〜!」


公孫賛ちゃんから拍手をいただきました。


「すげー! 大人だっ!」


ダテにあの世は見て…じゃなくて、ダテに長く生きてないよ、御嬢ちゃん。


「公孫賛ちゃんはしっかりしてるから、劉備ちゃんの面倒を偶に見てあげるといいよ。確かにあの娘、才能とかはあるんだろうけど正直、天然だからね。駄目な事は駄目って、ちゃんと言ってあげる人に公孫賛ちゃんがなってあげればいいんじゃないかな? そしたら公孫賛ちゃんもあんまり気にならないでしょ? 言いたい事は言えるんだし」


というわけで調子に乗ってアドバイスなぞを。

でもまぁこれで公孫賛ちゃんが偶に上手く潤滑油になってくれれば、劉備ちゃんだって分かるでしょ。

彼女がいる時といない時で周りの反応が違うって事くらいは。


「……よし、そうだな。分かった! 私、なんとかやってみるよっ!」


公孫賛ちゃんはそう言って目を輝かせて走り去っていきました。

厄介ごと押し付けた感じだけどまぁ、公孫賛ちゃんは常識人っぽいから最適だしね。

さ、じゃあまぁ俺は極力劉備ちゃんと関わらずにここでの生活を続けましょうか。

だって…………少なくとも今はまだ安心出来ませんから。

俺と劉備ちゃんが関わった事で母様お料理フラグとか立っちゃったら困るしね。


















その後公孫賛ちゃんは俺に真名を教えてくれました。白蓮ちゃんって言うそうです。可愛いですよね。

後俺の事兄さんって呼ぶようになりました。個人的には兄君様が好みですが、まぁあんまり不満はいえません。

でもお兄様と兄ちゃまは個人的になしなので、万が一にもそんな呼び方された日にはそう呼んだ人に正座で耐久説教かましますのであしからず。

後白蓮、あれから上手い事劉備ちゃんの手綱を握ってるようです。

俺の事も特に洩らしてないらしく、以前確認したら「そんな事するわけないっ!」って顔を真っ赤にして怒られました。

これに関しては俺が白蓮を信用してなかったって事なので、素直に謝っときます。

とまぁそんなこんなで、白蓮のおかげで俺の所に来る娘達の数も最近じゃめっきりでありがたい限り。

なんですけど……


「劉封く〜ん♪ 先生気づきましたの〜♪ 男の子相手じゃないと子を生せないんですのよ〜♪」


忘れた頃に戻って来た。




















この先生、実は馬鹿だよね? ねぇ!?




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