どうも始めまして、
っていいます。
2○歳フリーター(男)です。
最近結構三十路の足音が大きくなってます。いや、ました。
家が近かった所為もあって小さい頃から有名な忍術道場に入門して、日々鍛錬したりしてます。
まぁ忍術って言っても消えたり分身したり変化したりなトンデモな事は出来ませんよ?
単純に、空手とか柔術とかと同じ武術の一つってのが一番近い認識ですね。大会とかないけど。
とにかく、そこで結構認めてもらえるようになった事だけが唯一の自慢。
……あ、強さとか腕じゃなくて事務能力とかそっちのほうですけどね?
強さは……ま、まぁ、何事もお手本のようだって言われてます。
型は綺麗だし教え方も巧い。
思考も冷静かつ柔軟で向き不向きで言えば向いてるけど、体格と基礎的な運動神経で後れを取ってると……
でもいいんです。
教える側に立つってのもありだと思うし、別にこれで誰かを叩きのめしたいわけでもないですから。
もう今の時点で素人さんとか喧嘩上等な人達くらいあしらうのは分けないですし。
ともかく、このまま定職に就けなかったら道場経営陣に入れって、館長直々にお誘いいただいてます。
とまぁそんな一風変わった生き方を2○年間続けてきた、正直自分でもこの先どうなるかイマイチ見えてなかった俺なんですが……
まさか、その“先”そのものがなくなるとは思っても見ませんでした。
え?
どういうことかって?
え〜……どうやら俺、死んだらしいです。
道場帰りにいつもの横断歩道をいつもどおりに渡っただけだったんですが、ここでいつもと違う事。
つまりイベント発生だね。
……まぁ結果的には死亡フラグだったんですが。
まぁとにかく、ちっちゃい女の子が信号点滅中にも関わらず飛び出したんですよ。
おいおい大丈夫か?
とか思ってたら案の定、信号点滅終了。つまり赤信号です。
明るかったらすぐにそんなの気が付いたんだろうけど、残念ながらもう日は隠れる寸前。そしてここは曲がり角。
そしてそんな女の子を追っかけて道路に飛び出してしまったのが、若奥様風の女の人。
細くて小さい、結構優しそうな可愛い系美人さんでした。年上っぽかったけどね。
お母さん、ちゃんとお嬢さんから目ぇ離さない様にしないとね〜。
なんて思ってたら、これまたどんな漫画だよってなくらいタイミングよく俺の視界にはスピード結構出してるセダン。
ドライバーはパンチパーマ一歩手前のおばはんだった。
あー、ちょっとスピード落としたかなぁなんて思った瞬間、嫌な予感はしたんだよね。
で、なんとなしに振り返ってみると、まだ道路の真ん中で右往左往してる美人奥様とそのご息女。
突っ込んでくる車と、とっさの事に反応出来ないお二人。
でまぁ、何を思ったかその親子を突き飛ばして、代わりに引かれてしまったワケです。
そこ、何の為の忍術だとか言わない。ついでにどこの幽遊とかもいわないっ!
そりゃ俺だってシュッとか飛び上がって電信柱の上とかやってみたいさ。
でもそんなのウチの師範だって出来ない……っていうか人間に出来るわけないでしょうが。
人の身体能力ナメんな?
まぁそれはともかく、死んでしまった俺なのですが……死んだら土に返るってのはとりあえず嘘のようです。
それどころかちょっと……いやかなりありえない状況下に置かれてます。
ぶっちゃけホント、これが某幽霊と遊んじゃおう的な白書で、ぼ○んちゃんが出てきて○界探偵コースとか選択肢があったんならそっち行きたかったです。
ぼ○ん可愛いしね。
で、俺が今どんな状況下に置かれているかというと……
「あー、うあー、あうあー」
必死に状況説明をしてみようとしてみたんですが、いかがでしょう?
恐らく意味はまったく分からなかったでしょうが、状況はご理解いただけると思います。
そうです。
俺は今、第二の人生を歩んでおります。
まぁ、輪廻の輪を実体験ってのは中々得がたい経験なので嬉しいといえば嬉しいんだけど……たしか記憶は移行されないはずじゃなかったっけ?
じゃあこれ、輪廻転生とかじゃないのかな?
とまぁこんなふうに考えていった結果、俺はある信じたくない一つの結論にたどり着きました。
それは、その……いわゆる…………
「あうあう、あ〜うあう(トリップあ〜んど転生)」
……え、ええいっ!
笑わば笑えっ!
俺だってこんな結論信じたくもないし、たどり着きたくもなかったわっ!
え? 憑依とも言うって?
知るかそんなもんっ!
……す、すいません。取り乱しました。
で、それはそれとして受け入れるしかないんですが、実はもう一つとても大きな問題があるんです。
その問題っていうのが……
「ただいまー、母さん、封。今帰ったぞー!」
この人が今の俺の親父殿。
息子の贔屓目…ってのは可笑しな言い方だけど、結構精悍な顔つきのいい男だ。
ジャニーズ系とかのなよっちいイケメン風じゃなくて、こう……昭和の感じの。
村○弘明さんとか。ビバ仕事人な感じです。空飛ぶライダーでも可。
で、この親父殿は、というかウチは猟師の家らしい。
狩りをしては近くの農家の人達と物々交換して食料を入手してくる、結構やり手な親父殿だ。
そしてそんな親父の声にこたえ、
「はい、お帰りなさい貴方。今日もご苦労様でした」
と穏やかに微笑むこの可愛い系美女の若奥様は、何を隠そう俺の今の母様。
俺が前の人生で死ぬ直前に助けた(はずの)あの若奥様にそっくりだったのは、正直かなり驚いた。
どれだけ驚いたかって、そりゃもう声もないくらい。
……喋れないんだけどね、どうせ。
そういえば結局あの後どうなったんだろ?
この母様似の奥様と娘さん、ちゃんと無事ならいいんだけど……
……とりあえず俺を引いたあのおばはんが捕まっている事を心より願っております。
とまぁそんな事よりも、だ。
それらは全部、本元の問題の前では些細な事なのです。
で、問題なのですが……実はウチの親父殿、劉安というらしい。
ちなみに姓が劉で名が安。これが俺に“トリップあ〜んど転生”なんていうふざけた結論を否定できなくさせた要因の一つ。
そして、ここで出てくるのが親父殿の姓である“劉”と、さっき俺を呼んだ名である“封”。
この二つを姓と名としてつなげると……
“劉封”
つまり、俺の知識とそれを元として今、俺が赤ん坊の状態で見聞きした事を元に導き出した答えが正しいのならば……今俺は後漢末の時代あたりにいる事になる。
それはつまり……
俺は今、三国志の時代にいるという事に他ならない………………うん、多分。
“多分”に深い意味はないです。
あえて言うなら、そうでない事に対する儚い希望がそこに現れてる感じ。
とまぁそんなこんなしている内に、我がご両親は夫婦水入らずの夕飯を終えたようです。
え?
俺のご飯?
…………き、聞かないでください。
これからあんな恥ずかしい思いを暫く続けなければならないと思うともう……
「ところで貴方。最近“
”の様子が急に変わったんです」
お、俺の話題ですか母様?
ちなみに
っていうのは俺の真名ってやつらしくて、何でも心を許した相手にしか教えてはいけないんだそうだ。
俺の知ってる三国志の時代とはちょっと違う文化が出てきたんだが……ちょっと自分の推理に自信がないのはこんなところがあるからってのもあります。
っていうかね……
なんで俺の真名、俺が一度死ぬ前の名前と同じなの?
…………………………すみません。気にしたら負けですよね?
いきなり赤ん坊でしかも中国ってところでもう完全にアウトなんだから、もうこうなったらすべて受け入れていくしかないんでしょう。うん。
ってワケで、良かったよ〜前の名前と真名が一緒で。
呼ばれなれた名前のほうが不都合ないしね。
……こんな感じでいいかな?
「……というふうにですね、最近ではあまり泣かなくなりましたし、目も心なしかこう……何かを見ているとでも言いましょうか……」
「ふむ。確かに、何処となく前にも増して利発な雰囲気が備わってきているみたいだな」
「でしょう?」
ふむ……ちょっとマズい、か?
俺としては2○年間生きてきて、その延長でここにいる感覚だからつい普段どおりに振舞っちゃってるんだけど……まぁそりゃ赤ん坊だし、出来る事と出来ない事っていうのはあるけどね?
身体は子供で頭脳は大人って、なんかの漫画の台詞であった気がするけど、確か彼も同じような問題に直面してたっけ?
でもまぁ、ここでおかしな子供扱いされて捨てられでもしたら大変だし……
「だからもう私、この子の将来が今から楽しみでしょうがないんですっ♪」
……………………………………………………はい?
「そうだな。俺とお前の子供なのだから体は丈夫に生まれているだろうが、そこに知力もとなると…………」
「将来は何処かに仕官して、国の為に働く将になる事も夢ではありませんっ♪」
「これは……多少生活の余裕を削ってでもきちんとした教育を受けられるように準備せねばな」
「もちろんですっ!
この子は猟師で終わっていい子ではないですよっ♪」
…………………………なんか盛り上がってます我がご両親。
正直、自分の親がこんな話をするところは見たくなかったです。
もうこの親馬鹿っぷりったらもう…………恥ずかしくて全身が痒くなりそうっ!
というわけで何故か劉封に生まれ変わった?(いまだに断定出来ず)俺なんですが、もうこうなったら仕方ありません。
この乱世(に恐らくなるんだろうなぁ)を俺なりに生き抜いてみせますともっ!
とりあえずホントに劉封だったとしても俺の知ってる歴史はそのままなぞらない方向で。
え?
なんでかって?
だって劉封って劉備の養子になって、関羽助けにいかなかったって言って掌返されて処刑され……
「……あう?」
…………思わず声出た。
そういえば劉封って、正史でも日本の三国志演義でも元は寇封って名前だったんじゃ………………っ!?
――――――――――やばい――――――――――
本気でやばいよコレ。
俺、原作演義のほうの劉封になってる!?
っていうかなんでっ!?
そもそも演義って作り話じゃないのっ!?
原作演義のほうの劉封って言ったら死に方は和訳や正史とたいして違いないけど、でも劉備の養子になる流れに大問題がある。
何かって?
何って……
劉封の父親は劉備をもてなす為に奥さん料理しちゃうんだぞっ!?
このまま普通に生きていけばそのルートに入る可能性が大きくなるかもしれん。
親父殿も母様もいい人たちだ。
つい最近ようやく二人が自分の親と思えるようになったんだ。
殺させるわけにも、死なせるわけにもいかない。
となると……………………そう、その要因をまず潰していこう。
さしあたっては飢饉、だったかな?
俺の行く末ってのが最大の要因だけど、最悪劉備がここに寄ったとしても食事を出せるようにしておかないと。
そうと決まれば……って俺まだ何も出来ない……くそっ、これが孔明の罠ってやつか……違うか?
まぁそれはともかく、まずは情報収集しながら飢饉回避の対策をしないと。
幸い知識は引き継いでる。
それを生かして裕福になるか、それとも親父殿と母様がそれを望まないなら今の生活を維持出来る様にするか。
さっきの親馬鹿っぷりから察するに前者でまったく問題なさそうだけどな。
さぁ、考える時間は山ほど……それこそ年単位であるんだ。
じっくりたっぷり考えて、精々生き抜いてやろうじゃないか!
「そういえば噂なんだけど、盧植先生って凄く有名な偉い方が塾を開いてるらしいわよ」
「なにっ!?
よしっ! じゃあ今から節約してこいつの将来の為に金貯めるぞっ! お前、苦労をかけるが我慢してくれるなっ!?」
「もちろんですっ!
自分の子の為ならば節約など苦労の数にも入りませんっ!」
って盧植っ!?
それってあれですよねっ!?
あの劉備とか公孫賛とかが学んでたあのっ!
うっわー本気ですか二人共!?
正直魅力的な話だけど、俺にはやらなきゃいけない事が…………でもいってみたい気も…………あ、あれ?
「……ふぁ」
「あら?
おねむかしら。あくびしちゃって♪」
「こういう所はまだまだ子供らしいな」
……だ、駄目だ…………し、思考がぁ……………
「…………くぅ…………」