再会×心配?×二人の過去


























「……団長に逆らう気はないけど、なんでいつもあたしなんだよ」

天空闘技場にあたしが態々やってきたその理由。
それは、ここの200階クラスなんて金にもならないところに何故か居座っている旅団の仲間、とはあまり言いたくないな……メンバーに団長からのメッセージを伝える為だ。
ったく、アイツへの伝言はいつもあたしに回ってきやがる。
まぁ会う度に何処か怪我してるおかげで治療代をたんまり稼がせてもらえるのは悪い事じゃないが……

「……それでも、治療費と引き換えにアイツへの伝言係を代わってもらえるなら喜んで支払うね、あたしは」

正直、あの変態とはあまり係わり合いになりたくないのが本音だね。
まぁそれはさておき、調べたところじゃアイツの試合はまだ少し先。
それはここに来る前から分かっちゃいたんだけど、何故かあたしの感が早めに来たほうがいいと告げてたんで、前の仕事を終えてすぐにここに来た。
でも態々こうしてやってきたんだから、試合後にふんだくれる状況で会いに行くくらいじゃないと本当にただのメッセンジャーで終わっちまう。

「あたしの勘も、鈍ったのかね?」

そう思って、まぁ仕事もないしのんびり暇を潰すかと適当にブラつき、身の程知らずのナンパ共から有り金巻き上げて高めのレストランで食事を済ませる。
いくら盗賊だからって、食い逃げするほど堕ちちゃいないからね。
で、店を出た時だった。
鈍ったはずのあたしの勘が、なんとなく真っ直ぐ宿に帰った方がいいと告げたのは。

「……ま、いいけどね」

どうせやる事もないから暇つぶしにもう数人狩ってやろうかと思ってたけど、まぁいい。
あの変態が大怪我してくれるまではのんびり過ごしてやろうと思ってたところだし、何もしないのもいいだろうと思って宿へと真っ直ぐ足を進めていたときだった。














「…………………………………………………………………………………………………………え?」












目の前から歩いてきた一人の男に、あたし自身が釘付けにされた。






そして思い出した。





あの、クソのような日々の中の楽しかった記憶を。





それをあたしに感じさせてくれていた、優しい奴の顔を。












「…………ま、まさか………… 、なのかい?」








何処か確信めいたものを持って発したあたしの言葉にその男は、あの時と変わらない少し困ったような笑顔を浮かべてあたしの名前を呼んだ。











「…………久しぶり…………マチ」





























…………いや、ホントにびっくりしました。
あ、ご挨拶が遅れてすいません、 です。
ウイングさんの所からの帰りで出会った、というか再会した着物の美少女は……マチ。
僕がかつて流星街にいた時の仲間で……僕が、裏切ってしまった家族の一人…………の、はずだったんですけど……

「…………あの……マチ?」

「……いいから黙って少しこうさせときな、馬鹿」

何故か今僕、路上で堂々と真正面から抱きつかれてます。
……まぁ、晩いから人通りがほとんどないのが救いっちゃ救いですが。
それから少しして落ち着いてくれたマチに離してもらい、そのままお別れ……は出来そうもないので飲み物を買って傍の階段に腰を下ろしました。
……いや、面と向かってって、話しづらいじゃないですか?

「……とりあえず……元気、だった?」

我ながらなんて当たり障りのない話の切り出し方。

「……あぁ……それなりに元気だったよ」

ほっ。
とりあえず一安し…「アンタがあたし達を見捨てていってからもね」…………あ、あの…………

「別に怨んでるわけじゃないさ。アンタは団長…クロロのやり方に従いたくなかったんだろ? 昔からそうだったし、そんな事で怨むわけないじゃない」

…………の、割に結構言葉に棘があるんですけど……

「けど……」

「……?」

「……なんで……」

……何?

「じゃあなんで、あたしを連れていかなかったんだい!?」

「……………………………………………………はい?」

何、言ってるんでしょうこの娘は?

「……え? 僕、マチとシャルには言っていったはずだよね? クロロの考えには賛同出来ないから、出て行くって」

「……あぁ……確かに言ってくれたよ、アンタは。“もう、さよならだね”って」

……ですよね? なら……

「……でも、アンタ一度も……誘ってはくれなかった」

「…………………………え?」

「クロロと会う前からの付き合いのあたしにアンタは、自分と一緒にいくかどうかすら聞いてくれなかった。いつも一緒だったおとこ…な、仲間から一方的に別れを告げられたあたしの気持ち、アンタに理解出来るかい?」

……マチ?

「アンタが一言あたしに聞いてくれてさえいれば、あたしはアンタについていきたかったんだよ。でも、何かを覚悟したような目をしてたアンタにあたしから“ついていく”とは言い出せなかった」

……なんていうか……言葉が上手く出てこないです。
確かに僕とマチ、そしてシャルは、他の仲間達やクロロというカリスマに出会うよりも前からの仲間でした。
3人で稼ぎを出し合って生き延びてきた、他の皆よりも強い絆で結ばれていると言っても過言ではない仲間。
そうしているうちにパクやノブナガ、フィンクス達と出会って、そしてクロロと出会った。
クロロは強烈なカリスマの持ち主で、彼が幻影旅団の構想を話した時も皆反対するどころか、いつの間にか彼をリーダーとしてのその構想に誰も疑いを持たないほど。
そしてそれは同時に、僕の仲間達が僕とは違う方向を向いている事を認識させられる事になったんです。
だから……

「……あの時僕は、少しでも早くあそこを離れたかったんだ。皆……クロロ・ルシルフルってカリスマに心酔してたから」

「っ!? そ、それはっ!?」

「別にそれが悪いなんて言わないよ。彼はまさしく皆を導く存在だった。それまで目的もなく、先も見えないままただ生きるためだけに日々を過ごしてた僕達にとって、彼が示した道は惹かれるべくして惹かれるものだと思う。勿論、マチやシャルも……」

「…………あ」

多分、思い出したんだと思います。
あの時……クロロの幻影旅団の構想を聞いた時自分…マチとシャルが僕に目を輝かせながらその素晴らしさを語って聞かせた事。
いや、だから責めたりとかそういう事じゃないんだよ?

「それに僕も、あのままあそこにいたら間違いなく幻影旅団の仲間になってたと思う。クロロの言葉に、引きずられて。僕はそれが嫌だったんだ。僕は……流星街なんて最悪の場所で生まれた僕でも、まともに生きる事が出来る事を証明したかったから。あそこで生まれたからといって誰もが、卑下されるような人間になるわけじゃないって証明したかった。だから……」

「で、でもっ! それでも誘ってくれたって……っ!」

「説得する自信が、なかったんだ。あの時クロロの言葉に希望を見出していたマチとシャルを、長い付き合いだからってだけで自分が目指す道に引き込むには、僕が目指すものには具体性がなかったから。心が傾いていた2人をどう説得して良いのか分からなかった。だから……僕は一人で、あそこを出たんだ」

…………覚悟はしてたけど、重い話になっちゃいました。
マチは、昔と変わらないと思ってた勝気な感じが消えちゃって俯いちゃいましたし……
クラピカの事もあるし、出来れば会いたくなかったんですけどね。
でも……重い話ついでに、聞いておきましょう。

「話は変わるけど、マチ……クルタ族って覚えある?」

「……は? あ、え、あ……ひ、緋の目の、か?」

……あるんだ、やっぱり。

「確か団長が見たいからって言って何人かついていってた。もって帰ってきたのが暫く拠点にあって、それを見た事はあるけど……」

……………………………………え?
あれ? ちょっとまって?

「ま、マチ? 確認するけど、幻影旅団がクルタ族を襲った時、マチは……」

「あ、あぁ、いなかった。シャルとフランクリンと一緒にシズク…新人の勧誘にいってたからね。そ、それが……どうかした?」

……………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
あー……………………一気に気が抜けました。
クラピカの話を聞いた時、もし本当にマチとシャルがそんな事してたら……完全にクラピカの仇になってたんだとしたら、僕はもう止められなかったです。
でもこれで……いざとなったらせめて、実行犯じゃない奴等が狙われた時だけでも助太刀出来る。
一緒にいってただろうフィンクスやフェイタン達には薄情だって思われるかもしれないし、マチとシャル、フランクリンなんかにも軽蔑されるかもしれないけど……

「良かった」

それでも仲間は……友達は、なるべく生きてて欲しいですから。

「それを聞いて、少しだけ安心したよ。マチが、虐殺なんてしてなくて本当に良かった」

ま、こんなところでしょう。
あまり長く一緒にいるとまた名残惜しくなりそうだし、だからと言って今の僕にはマチと一緒に幻影旅団で活動するなんて道、本当に選べません。
余計な事を言ってクラピカの事を気取られたら、彼の因縁に僕が首を突っ込む事になっちゃいますし。
少し温くなった飲み物をもって立ち上がり、天空闘技場へと足を向ける。

「そろそろいくよ。次、もし会う事があったとしてたとの時は……敵じゃない事を、祈ってるよ」

「……え? ちょ、ちょっと !?」

「でも……またこうやって会えると嬉しいな」

「んなっ!? お、お前そんなっ!?」

「じゃあね、マチ」

いきなりそう言って歩き出した僕を追ってくる事も思いつかずにワタワタやっているマチに少しだけ後ろ髪を引かれながら僕は、僕に出来た最初の友達と2度目の別れをしました。



























…………意味が分からない。
なんだなんだ何なんだあの馬鹿 ッ!
折角……折角会えたってのに世間話だけしてそれで終わりかいっ!?

「そりゃ……アイツが出て行ったのにはあたし等にも責任があるけど」

そう……そうなんだよね。
そもそもアイツが……多分その内出て行ってただろうアイツだけど……その予定を早めて、別れの言葉だけを一方的にあたし等に押し付けて姿を消した原因は、あたし等にあったんだ。
団長ってカリスマに引っ張られたあたし等の姿が、違う理想を持ってたアイツに諦めさせたんだよね。
あたしは……ああは言ったけど、もしあの頃 に誘われてたら……

「多分、駄目だったろうね。あの頃あたし達は皆、盲目的って言ってもいいくらいだったし」

団長についていった事に後悔は、ない。
を袂を別つ事になってしまった事以外は。
あの頃の自分にもし会えるなら、あたしは躊躇なくひっぱたいて に着いていかせるだろうけどね。

「にしてもアイツ……嬉しそうだったな」

変わってなかったな、アイツ。
あたしがクルタ族の大量虐殺に関わってないって知った時のホッとした笑顔、あの笑顔が本当に懐かしかった。
多分あいつ、噂であれがあたし達の仕業だって知ってからずっとそれを気に病んでたんじゃないか?
あんな腐った所で生まれ育ったのに、気持ち悪いくらい優しい奴だし。
それに何より……

『でも……またこうやって会えると嬉しいな』

別れ際に はあたしに確かにこういった。
これってつまり、 はあたしと再会した事を本当に嫌がってなんかいないって事だろ?
……分かってるさ。
人を人とも思わない、欲しいものは略奪がモットーの幻影旅団の一員がこんな事思ってるなんて可笑しいって事くらい。
人に嫌われ、疎まれ、怨まれてもただ目的を遂行するなんて言ってるくせにあたし……アイツにだけは嫌われたくないんだよ。
最初に手を差し伸べてくれた奴で、最初に組んだ仲間で、最初に気を許した友達で…………最初で最後、好きだっていえる相手だったアイツにだけは。
子供じみてる事くらい分かってるし、何様だって言われてもそのとおりとしか言いようがない。
あたしは、それだけの事をしてきている。
でも……それでもあたしは、アイツが好きなんだ。あの頃から、ずっと。
幻影旅団の中であたしとシャルだけが他と異質…無駄な殺生をしないのも、いつか にまた会えた時にせめて、胸は張れなくても顔見せすら出来ない様な人間にならないように…… に、あの凍るような蒼い瞳で無益なものを見るような視線を向けられないようにって二人で決めた事。
団長は知ってて何も言わないし、他の奴等だって気付いてる。
皆あたし達と の関係は知ってたし、皆 も仲間になるって信じて疑ってなかったくらいにアイツを信頼してたから。
そうまでしてでもあたしにとっては…… だけは、特別なんだ。
だから……

「まだ、諦めないよ。折角、ようやく見つけたんだから」

ここで折角逢ったんだ。
絶対に……今度こそ絶対に を、あたしのものにする。
あたしの中でアイツが特別なように、アイツの中であたしが特別になるように。

「旅団のモットーは、今回は抜きだよ 。アンタが認めるやり方で、あたしはアンタを手に入れる」

団長、あの変態の連絡係にあたしを今回も選んだ事、今回は……今回だけは、感謝するよ。

「さて、久々にあたしだけの“盗み(しごと)”だ……覚悟しな、






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