Find a Meaning of Life

Phase 12























「フラガ大尉、少しお話いいですか?」

の願いにしたがってストライクを追って地上へと降下したアークエンジェル。
アラスカに降りる予定が大幅に狂い、現在はザフト勢力圏のど真ん中と言ってもいい場所に不時着していた。
何とかストライクは回収出来たものの、MSで大気圏突入をやらかしたキラが高熱にうなされてダウン。
戦力が納入されたばかりのスカイグラスパーだけではどうしようもない為現在は身動きの取れないそんな状況でそのスカイグラスパーを一刻も早く戦力にしようと調整を進めていたムウに声をかけたのは、

「……ん? お前さんは……坊主の友達のトール君、だったよな?」

トールだった。

「なんだ? ボウズの容体でも知らせにきてくれたか?」

そう言って笑顔でコクピットから降りてきたムウ。
しかしトールの表情を見ると、

「……違うな」

そうではないと分かり、表情を引き締めた。
いつもはムードメーカーなトールが、男の表情をしていたから。

「フラガ大尉……もう一機のスカイグラスパー、俺を乗せてください」

茶化さないでくれた事を感謝しつつ、極めて真剣にそう訴えたトール。

「勿論、今すぐ俺が戦力になるなんて思ってません。俺に本当に出来るかだってわからない。でも……それでも俺、何かがしたいんです。 が俺達に、託してくれたから」

「……アイツが、俺達に?」

「……はい。 が被弾して……それでも俺達に言いました。“キラを一人にするな”って。あいつは多分、何があっても友達でいてやってくれって意味で言ったんだと思うんですけど……でももう、これまでと同じにただ一緒にいてやるんじゃだめだと思うんです。それじゃあアイツは、 がいないんじゃアイツは、戦場では一人になっちまう」

トールが自分なりに必死に考えた結論。
それはトールの強さと優しさの現れたものだった。

「俺には……いえ、ここにいる誰にも、キラにとって の代わりにはなれません。コーディネイターとしてのキラの気持ちは俺達には、どんなに努力しようと絶対に完全には分かってやれないですから。そして戦場でも、それは同じだと思います。アークエンジェルの中の誰も、キラを引っ張ってやれるような人はいません」

「……そりゃあ、な」

その事に関してはムウ自身も分かっていたらしく、苦虫を噛み潰したような表情で肯定した。
本当ならば自分がそうあるべき存在だという事は、ムウ自身も自覚していたから。
しかしナチュラルである自分とコーディネイターであるキラの間にある能力の溝は、決して埋められるものではない。
ムウにはキラのようにストライクを乗りこなせない事は事実でしかないのだ。
しかし今、目の前にいる少年はそれを分かった上でそれでも、少しでも力になりたいと申し出てきた。

「俺だって、副操舵士からMAパイロットになったところで……いくら同じ戦場に出られるようになったとしても、 の代わりになれるわけがない。フラガ大尉が出来ない事なのに俺みたいなのが出来るはずがない事は分かってます。でも……」

「……それでも何か、してやりたい」

「……はい。俺はあくまでも副操舵士ですから。何かを出来る時間は十分にありますからね」

そういって笑うトールのその目が、実はまったく笑っていない。
その瞳に光る決意と強い意志を見て取ったムウは最後の警告をする。

「本当に、いいんだな? お前、死ぬかも知れんぞ?」

「はい。ミリィは怒るかも知れないし、死んだら泣かせちゃうかも知れませんけど……死ぬつもりはありませんし、俺は託された事を俺に出来る範囲でやるだけですから」

強い眼光と共に警告をしたのにも関わらず、気負いなく淀みなくはっきりとそう応えたトール。
MAパイロットを甘く見ているわけでもなく、覚悟を持って応えたと判断したムウは、

「……いいだろう。俺に出来る限りをお前に詰め込んでやる」

真っ直ぐにトールの目を見て、決断した。

「あ……ありがとうございます、フラガ大尉!」

「ただし、やるからには徹底的にやる。泣いても血ぃ吐いてもやめてやらんから覚悟しておけ。当然、これまでみたいなガキ扱いもなしだ。いいな……トール」

「はっ…はいっ、よろしくお願いしますっ!」





























「…………はっ!?」

ザフトの軍人であり優秀な研究者でもある彼女、シホ・ハーネンフースが冷気を感じて目を覚ますとそこは、ここ最近でずいぶんと見慣れてきた砂漠とその中にかろうじて立つ廃れたかつては建物であったであろうコンクリートの柱の中だった。
あたりを見回すと、そのかつて建物だったものが完全にただの瓦礫の山になってしまった中に見慣れたカラーリングのシグーの一部が見える。
その様子を見たシホはそれまで自分が何をしていたのかを思い出し……

「……どうなってるの?」

自分が今おかれている状況が飲み込めなかった。
自分が軍の機密漏洩を防ぐ為にバザーで出品されてしまっていた偵察タイプのバクゥの頭を買った男からそれを奪い返し、見られてしまっていたのならば消す任務を負っていたのは覚えている。
その男に仲間がおり、しかも仲間と思われるMSの内の一機がデータで送られてきたクルーゼ隊と戦闘していた黒いMSであった為、任務を仲間に託して自分はそちらを追った事も覚えている。

「そして私は……負けた。それも覚えている。なのに……何故私は生きてシグーの外に出て、しかも毛布をかけて寝ていたのかしら」

あまり綺麗ではないがきちんと厚手の毛布をかけられていた自分。
目を覚ました理由が寒さだったことからも、それがかけられていなければ無事ではすまなかったかも知れない。
それは分かるが、誰がやったのかがわからない。
と、そんな事を考えながらシホが自分がこの後どうするかを思案していたそんな時だった。

「っ!? MSの駆動音っ!? それに……ビーム!?」

コンクリートにさえぎられて視界にはいらない位置の方からMSの駆動音と飽きるほど聞き続けてきたビーム音が聞こえてきた。

(これは……例の黒いMS?)

普通に考えれば、味方の救援の可能性がないわけではない。
しかしザフトにビーム兵器が配備されていない現状を誰よりも知るシホが思いつく可能性の中で一番高いのはやはり、自分がここまで追って来た敵機であるというものだった。
武器は何もない。
しかしこのままいてもどうしようもない。
現状の確認の為勇気を振り絞って慎重にコンクリートまで歩く。
何かの時のためかけられた毛布をつかんだまま、なるべく足音を立てないようにどうにかそこまでたどり着くと、

「―――ふぅぅぅぅ……よし」

静かに、緊張で強張った肩をゆっくりと息を吐きながら下ろし、意を決して壁の裏側を覗き込む。

「っ!? やっぱり……あの黒いMSね」

シホの視界に飛び込んできたのは予想通り、自分のシグーを撃墜した例の黒いMS、ブレイド。
それが片膝立ちの状態で何かの作業をしているところだった。

「何かしら……ビームをあんなに弱めて……何かを掘っている?」

慎重にビームサーベルを動かしているその様子から、何か細やかな作業をしているのだと想像したシホ。
しかし辺りはもう暗く、明かりは月とブレイドのビームサーベルが発しているものだけ。
物陰からではどうしても何をしているのか分からず、

「くっ……仕方ないわね」

意を決してコンクリートの影からゆっくりと出て移動を始めたシホ。
幸い大きな瓦礫はところどころにあり、女性としても決して大柄ではないシホ一人が完全に自分の体を隠すくらいは何の問題もない。
そうして慎重に現状確認を行う……はずだったのだが。

「…………へ?」

視界に飛び込んできた情報のあまりの意外さにシホは、思わず声を上げて立ち尽くしてしまった。
偵察任務ならばここで即、殺されてしまう可能性の高いあまりにもお粗末なミス。
しかしシホはそれでもなお、とっさに身を隠す為に動こうとはしなかった。
なぜなら……

「ん? あぁ、目が覚めたか。さっさとこっちに来なよ。寒いんだから」

「…………た……焚き火?」

黒いMSの下にいた男、 はただのんびりと、火に当たっていただけだったから。

「ん? もしかしてコイツを動かす音で起きちゃった? だとしたら悪かった。さすがに寒くてさ」

そう言って軽く笑う の表情に毒気と警戒心を一挙に抜かれたシホ。
そのMSが地球軍として戦っていた事を忘れて へと近づいた。

「あ、貴方は……」

「ん? これのパイロットで、君を撃墜した……ってちょっとまって」

撃墜された事をようやく思い出して身構えたシホだったが、 はそんなシホを片手で制して、

「とりあえず自己紹介だ。俺は 。少し前までヘリオポリスで普通の学生やってたコーディネイターだ」

と自分から進んで自らの素性を明かし始めた。
そしてそんな の言葉にシホはまた戸惑う。

「あ、貴方コーディネイター? そ、それにヘリオポリスって……」

「そう……君達の軍に潰されたあのヘリオポリスだよ」

「あ……え…と、その……」

「あぁ、別にその事に関して君がどうこう思う必要はないよ。指示を出したのはお偉いさんなんだろうし、実際にやった奴等の一人にはもう文句も言ってきたから……それとも実は君が指示したお偉いさんだったりするか?」

「いっ、いえっ! わ、私は……ただの一研究者…です。テストパイロットも兼ねてますけど」

自分達の軍が民間人であった同胞を数多く危険にさらした事を聞き、態度がさらに軟化するシホ。
言葉遣いこそ普段から丁寧語を主に使っているのでほとんど変わっていないが、刺々しさと威圧的な印象がかなり薄れてきた。

「し、しかしなんで我々の同胞であるはずの貴方が地球軍のMSに乗って戦っていたのですかっ!?」

「それはまぁ、巻き込まれたからとしか言いようがない。後は、成り行き」

「な、成り行き!?」

「あぁ、成り行きじゃ言葉が悪いな。実は……」

咎める様な口調になったシホをそういって抑えると、 はこれまでの経緯を簡単に話し始めた。
避難しおくれて、目の前に運よくあったMSに乗って脱出した事。
自分が乗っていたMSが機密に触れるものであった為解放されなかった事。
加えてアークエンジェルにはMSパイロットが居らず、また民間人の友人が乗っていたため、何もしないで殺されるわけにもいかずにMSに乗っていた事。

「で、コーディネイターの捕虜を解放する約束を取り付けた代わりに、地球軍のMSパイロットとしての契約を少し更新した。まぁ結局半ば落とされる形でこんなところにいるけどね。で、今は拾ってくれたジャンク屋に乗せてもらってとりあえず目的地だって聞いてたアラスカの方に進んでたってわけ」

そう言いながら新たな木片をいくつか火の中に置く
語るその口調そのままのようにただ淡々と。

「で、君は? ザフトだって事は分かるけど、目的は俺…ていうかこの機体の撃墜?」

ある程度火の勢いが増したのを確認すると は顔を上げてシホに尋ねる。
とはいえその内容とは裏腹に表情は相変わらず穏やかなまま。
そんな事を、やはり相手が同じコーディネイターだったこともあってか、シホは自分でも驚くほど滑らかに話し始めた。

「私はシホ・ハーネンフース。ザフトで先程言ったとおり研究員をやっています。現在は武器開発に携わっていまして、今回は……目的は仰るとおり、その黒い機体の鹵獲または撃墜です」

「うん、嘘だ」

「なっ!? 何故ですっ!?」

「だって君以外全員ロウを……ジャンク屋を追っていったじゃないか。それで目的が俺だったなんて、嘘にしてはお粗末にも程がある」

「っ!? そ、それは……」

「君が俺で、残りがロウ。トレーラーには見向きもしなかった所から察するに……ロウのMSか、もしくは……あの頭が目的か」

「っ!」

自分の小さな嘘を見抜かれ、そこから本来の目的まで言い当てられてしまった事から再び警戒心を高めるシホ。
しかし武器が何もない状態なのでいつでも動けるように身構える事が精々なのだが、それでも はそんな微妙な変化を察知した。

「そこで警戒しちゃったら俺の推測が正しいって認めてる事になるんだけど……まぁ別にそれはどうでもいいか。それよりも、落札者まで分かってたならその場で交換条件を出して譲らせるとか、そもそも自分達で落札するとかいくらでも方法はあっただろう。なんでわざわざこんな不穏当で効率の悪い方法を選んだんだ?」

見透かされた。
そう感じたシホはさらに警戒心を高めるが、いくらそうしたところで結局は無意味。
なぜなら の方に害意など、まったくといっていいほどないから。
ただ聞いてみただけといった のそんな態度にシホは、いい加減警戒するのも疲れた様子でため息を吐いた。

「……コーディネイターである私達が有象無象のナチュラル共に払ってやる金はないし、卑しいジャンク屋なんかと交渉する必要はない。それが、上の意見でした」

「……なるほど。ようするにまた、ザフトの偉大なるコーディネイター様はナチュラルを見下されておいでなのですねぇ」

「なっ! そっ、そんな事っ!」

「あるだろ。君がそれに納得してない事はさっきの態度で分かってる。でも、結局従ったんだから同じ事だ」

「そ、それは……」

「……いや、悪い。俺としてはロウ達ジャンク屋の皆は命の恩人だ。そんな理不尽な理由で虐殺しようとしてる奴がいるって聞いてちょっと……悪かった」

「い、いえ……ごめんなさい。技術者としてあの中のデータだけはどうしても他の手に渡せなくて……だから結局……」

項垂れるシホ。
に言われて今更ながらに自分達のしようとした事がいかに非人道的かという事に思い当たった。
言われたとおり、結局命令に従ったのだから言い訳は出来ないのだ。
人の命というものを、相手がナチュラルだからといった理由でいつの間にか軽く見てしまっていた自分が怖くなってくる。
そんな恐怖からか、思わず自分の肩を抱いてしまったそんな時だった。

「っくしゅっ」

目の前の が小さくくしゃみをした。
男のものとは思えない控えめなくしゃみだった事に少し驚いたシホは、そこでようやく気がついた。
は火には当たっているものの、着ているのは白い地球軍の軍服だけという事に。
昼間は異常なほどの熱気に包まれる砂漠地帯も、夜になればかなり冷え込むのだ。
そもそも自分が目を覚ましたのもそれが理由だったはず。
目を覚ました時から厚手の毛布を被っていたシホは今もそれを持っているので暖が取れているがそもそも、こんな廃墟と化したところでどうやってそんなものを見つけてきたのか。
そしてそこまで考えたところでようやく結論に至った。

「…………毛布……この一枚しかなかったんですか?」

はシホよりも早く、この寒さを体感したはず。
だからこそビームサーベルを使って火を熾すなどといった、開発者からすれば暴挙とも呼べる行動に出たのだろう。
そんな が毛布を被っていなくて、自分にかけられている。
そこまでくればいくらなんでも結論などそれくらいしか誰にも思い当たらない。

「あ、いや……結構探してみたんだけどな。その分俺が風下に入らせてもらってるんだけど……」

これまで冷静に、しかし穏やかにといった様子で話していた が少しだけ困ったように笑う。
そんな の表情を見たシホの身体は、自分でも分からないほど自然に動いていた。

「…………え? は、ハーネンフースさん?」

「シホ、です。隣、失礼します」

そういってシホは返事を待つことなく の隣に座って毛布を二人でかけ直した。
そして突然の事に硬直してしまっている の腰に軽く手を回すようにして身を寄せる。

「こ…これで、とりあえず二人とも暖をとれます」

「え? あ、あぁ……え?」

「私のような可愛げのない女ではご不満かも知れませんが、とりあえず夜が明けるまではこうしていたほうがお互いのためだと思います」

少々早口にそう言うシホは、やはり緊張しているという事なのだろう。
一度の の目を見ることなく、しかしそれでも分かるほど頬を朱に染めていた。
そんなシホを見た はやがて覚悟を決めたように、

「じゃあ……少しだけ、失礼するよ」

と言葉を押し出すようにそう言って彼女の肩に腕を回し、軽く引き寄せるように抱く。

「この方が……あったかいだろうから」

「そっ……そうっ、ですね……」

の腕の中で完全に縮こまって顔を真っ赤にして俯かせるシホ。
そんな様子に少しだけ余裕が出てきた もしかし、普段からは考えられないくらい表情がぎこちない。
しかし嫌がれてはいないかという不安が男として多少でもあるからか表情や動作の確認を何とか怠らずにいた はやがて、自分の腕の中で軽く船をこぎ始めたシホに気付いた。

「眠く、なってきた?」

「っ!? いっ、いいえそんな事は―――」

「いや、少しでも眠くなってきたなら眠ってくれると助かる。寝ないと体力回復出来ないし火の番もしてなきゃいけないから」

「だ、だったら貴方が―――」

「眠くないのに無理やり寝ようとしても余計精神的に疲れるだけだよ」

反論に被せるようにして論破してくる に、思考が鈍り始めているシホがすぐに押される。
そして……

「今日会ったばかりの男のすぐ傍で寝るってのも安心出来ないだろうけど……出来れば協力してくれないかな?」

が最後に自分からシホが抱えているだろう女の子としての不安感に関して触れた事で、シホはとうとう折れてもうそこまで迫り来ていた睡魔に身を委ねる事にしたのだった。

「す…すみません。では……2、3時間で交代しましょう」

そう言うや否や目を閉じて、程なく静かな寝息を立て始めたシホ。
そんな彼女を起こさないように は、

「……おやすみ、シホ」

そう小さく呟いて視線を焚き火へと戻すのだった。





























「っ!?」

数時間後、瞼に僅かな光を感じて目を覚ましたシホはすぐに自分があれから朝までずっと寝てしまった事を悟った。
そして眠りにつく直前まで自分の肩を抱いていた感触がなく、その彼の着ていた上着を枕にして寝かされていた事に気がついてすぐにあたりを見回すと、

「お、おはようシホ」

はすぐに見つかった。
彼が乗っていた黒いMSの肩の部分の上で。
もう日はそこそこの高さまで上っており、時間的に言えば自分の起きた時間は朝寝坊というレベルではない事に思い至って気まずいシホだったが、

「さっき俺の仲間……っていうか送ってくれてたジャンク屋の皆から連絡があった。もうすぐ迎えが……来たみたいだ」

そんな事などお構いなしのようにそう言って砂漠の方へと視線を向けていた がシホのところまで降りてくる。
程なく、シホにも何か大きな移動物体が近づいてくる音が聞こえてきた。
そして、

「よぉ ! やっぱ無事だったな」

そんな能天気な声と共に、昨晩見たジャンク屋の赤いMSが着地する。

「さて、じゃあお別れだね」

そう言って微笑む
そんな彼の表情を見たシホは一瞬、ここで彼を引き止められないかと考えた。
しかし昨夜聞いた彼の話をすぐに思い出し、出掛かった言葉をぐっと飲み込む。

「……軍人として……」

「……え?」

「軍人として、地球軍に入って戦っているわけでは……ないんですよね?」

シホの突然の言葉の意味を一瞬、考えてしまった
しかしすぐに、

「あぁ。俺がアラスカに向かうのはそこに着くまでは協力する条件で友達を解放させたから。そんで、そんな俺に付き合って軍に残った友達がいるからだ。条件を満たせばオーブに帰る」

と、どこか不安げな表情をしているシホに笑って見せた。
シホはそんな の言葉に安心したように頬を緩めたが、すぐに表情を引き締めなおして右手を に差し出した。

「では……終戦後、またお会いしましょう」

そんなシホの言葉に引っかかりを覚えた
コーディネイターである彼女の言う“終戦”とはいったい何なのだろうと。
だから は、

「……そうだね。また会おう」

そう言ってシホの手を少しだけ優しく握り、そして手を離すと軽く手を振ってブレイドの方へと歩き出した。
と、そんな と入れ替わるように少し前に進み出た赤いMS、レッドフレームに乗ったロウがコクピットから、

「おいお嬢さん、受け取りな」

とデータディスクを投げ渡した。

「あのバクゥの頭に残ってたデータだ。俺達も見ちまったが、別にそれをどうこうするつもりはねぇ。ジャンク屋のプライドにかけてそれは約束する! だから……あの頭は譲ってくれ!」

そうコクピットから拝むように両手を合わせて頭を下げるロウ。
シホはすぐに、 が彼女達の目的がなんだったかをロウに伝えたのだと気がついた。
そしてそれを知ってきちんと流儀を通そうとするロウに自然を笑いがこみ上げてくる。

「くすっ……分かりました。というか、今私にはどうせ取り返す手段がありません。データを得る事が出来ただけで満足するしかないでしょう」

「いやぁそうか! アンタいい奴だなっ! サンキュー! じゃあそっちの建物の裏に車止めといたから、帰りはそれ使ってくれ。あっちの方にザフトの基地があったし、一応通信機器は使えるようにしておいたから。んじゃな!」

譲ってもらえると分かって子供のように嬉しそうに笑いながらそうまくし立てて去っていくロウにあっけにとられていたシホだったが、ふとそこまで準備がいいジャンク屋達に疑問を覚えて思い立った。
は迎えが来るずっと前に実は連絡が取れていたのではないかと。
データディスクならば移動中にでも用意が出来るが、車を用意するには買うにしてもジャンク屋らしく作り上げるにしても時間がかかる。
シホにはそれ以外の結論など、思い浮かべる事が出来なかった。

!」

気がつくと声を張り上げていたシホ。
その声に、コクピットを閉めようとしていた が気がついて顔を出す。
自分でも何故呼び止めたのか理解していなかったシホだったが、 の顔を見ると言葉は自分でも驚くほどすんなり出てきた。

「約束、忘れないでください! 絶対っ! 絶対にもう一度会いましょうっ!」

そんなシホの表情は昨晩、焚き火を前にいろいろと話していた一人の女の子だった。
そしてその表情をみた は、彼女がザフトの軍人としてではなくシホ・ハーネンフースとしてそう言ってくれているのだと分かって素直に返事を返した。

「あぁ! 必ず!」

短く、しかししっかりと。
そして の脳裏にはしっかりと焼きついた。
そんな の短い返事を貰ったシホの、

「はいっ!」

嬉しそうなその笑顔が。
















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