Find a Meaning of Life

Phase 08























「嫌よっ! 嫌ったら嫌!」

食堂から響いてくる無遠慮な、何かを拒絶する声。
丁度食堂へいこうと足を進めていた は、その声を聞いて回れ右したくなった。

「とはいえ、ミゲルを飢えさせる訳にはいかないしな」

諦めたような溜め息と共に足を進める。

「私はやーよっ! コーディネイターの娘のところにいくなんて……怖くって……コーディネイターって頭だけじゃなくて運動神経も凄くいいのよっ!?」

その台詞が丁度言い終わった時食堂に足を踏み入れた は、そこにいるメンバーを見て盛大に溜め息をついた。
そこにいたのはミリアリア、フレイ、キラ、そしてカズイの四人。

「あ…… ……」

その溜め息で の来訪を知り、少し後ろめたくて視線を逸らしてしまうミリィ。
カズイは第三者の登場にあからさまにほっとしているし、キラはキラでフレイの台詞にショックを受けてしまってそれどころではない。

「で……なんでミリィはよりにもよってソイツに頼んだ?」

対峙しているミリアリアとフレイ、そして二人に挟まれるように鎮座する食事の乗ったトレイを見て何があったか大体予測のついた の口調は、何処となく咎めるようなものになってしまった。

「そ、ソイツって何よっ!」

「お前は黙れ……で?」

「ご、ゴメン……ただ私、やっぱり皆に仲良くなって欲しくて……」

ミリアリアはただ、フレイに態度を改めて欲しかったのだ。
歳の近い、しかもラクスのような少女ならば偏見も少しはなくなるだろうと思って引き合わせてみようとしたのだが、フレイはミリアリアが思っていた以上に偏見に凝り固まっていたようだった。

「途中から私もムキになっちゃって……」

「……そうか……分かった、もういいよ。ゴメン、咎めるみたいになって」

ミリアリアの本心を知って表情を和らげた
口調がきつくなった事を謝罪し、ミリアリアとの空気をなごませてすべてをうやむやにしようとした だったが、

「でっでもさっ! あの娘はいきなり飛び掛ったりしないんじゃないかな?」

カズイが間の悪いフォローを入れてしまう。
折角うやむやになりかけたのに、その台詞でなにでもめていたかを思い出してしまったフレイ。すかさず、

「そんなの分からないじゃない。コーディネイターの能力なんて見かけじゃ全然分かんないんだもの。もの凄く強かったらどうするのよ!? ねぇ?」

と、その場に二人もコーディネイターがいる事も忘れ、しかも最悪な事にキラに同意を求めてしまう。
そして更にややこしい事に、

「あら、どなたが凄く強いんですの?」

そのラクス本人が食堂に現れてしまった。
額に手を当てる と、呆然とラクスに視線を向ける他4人。
そんな視線をどう受け取ったのかラクスは、

「驚かせてしまったのならすみません。私、喉が渇いて……それに、笑わないで下さいね? 大分お腹も空いてしまいましたの」

と、笑顔で食堂の中に入ってきた。
キョロキョロとあたりを見回し、

「何かいただけたら嬉しいのですけど」

となんの遠慮もなく入ってきて、事もあろうにフレイに話しかけてしまう。

「なんでザフトの娘が勝手に歩き回ってるのよ!?」

怯えるように身を引きながら、しかし目は完全にラクスを睨みつけて刺々しい言葉を吐くフレイ。
ザフトとは軍の名称であり、自分は軍人ではないと穏やかに訂正するラクスの言葉に耳を貸そうともせずに、挙句自分とフレイは民間人同士だと友好の握手を求めた彼女に対してその場で絶対に言ってはいけない一言を口にしてしまう。

「馴れ馴れしくしないでよっ!? コーディネイターの癖にっ!」

「っ!?」

それはある意味禁句だった。特に……

「へぇ……まさかそれを、キラの前で言うとはねぇ。思ってた以上に馬鹿らしいな、お前」

そう、キラと、 の前では。

「そのコーディネイターであるキラに拾ってもらって故障したポッドから抜け出せて、そのキラに守られてここにいる事を忘れてそんな事口にするとは……大概にしとけよ? 売女」

「なっ!? ばっ……!!?」

「意味が分からないなら大好きなブルーコスモスのお父様にでも聞いてみろ」

容赦なく睨みつける の態度のあまりの豹変振りに上手く言葉の出てこないフレイ。
そんなフレイに畳み掛けるように辛辣な言葉を吐きかけた は、荒々しい口調のまま、

「食事はそこにある。ラクス、キラ……ここじゃ俺達コーディネイターは食事が不味くなる。いくぞ」

二人に声をかけ、自分は二人分の食事を手に取り踵を返した。

「あっ!? ま、まって! 私もいくっ!」

「……じゃあ飲み物持ってくれる?」

「分かった!」

「ありがとうございます、ミリアリア様」

ペコリとお辞儀をして食事を手に取り、 の背中を追いかけるラクス。
そんな二人につられるようにしてキラとミリアリアもまた、睨みつけるフレイとオロオロするカズイを残してその場を後にした。















「ミゲル、起きてるか?」

「おうっ! いい加減腹減ったぜ〜って、ラクス様っ!?」

の放っていた荒々しい空気は、食堂から離れるにつれて収まった。
その間なんとなく怖くて声をかけられなかったミリアリアとキラだったが、ラクスは一人、そんな に対してもなんの物怖じもせずに話しかけていた。

「お邪魔致しますわね、ミゲル様。用意してくださったお部屋では寂しくて、 にお願いして連れてきて頂きましたの」

そしてそんな状態の にまったく遠慮なく我侭を言い、それを通してしまったラクスはそんな事などまったく気にせずにニコニコ微笑んでいた。

「お、お邪魔だなんてとんでもないですっ! ほ、ほらキラッ! さっさと席をご用意しろっ!」

「えぇっ!? ぼっ僕っ!?」

「しょうがねぇだろっ!? 俺は怪我人なんだっ!」

そんな言い分に理不尽さを感じつつも、ミゲルのそんな態度とそれを見て笑っているラクスやミリアリア達を見ていると、フレイの一言などどうでもいいことのように感じられて自然と表情が和らぐキラ。
そしてラクスにテーブルを用意し、食事を取らないミリアリア以外は全員膝の上にトレイを乗せて食事を取り始める。
もう食堂での一件など嘘のように明るくなったその雰囲気にほっと一息つくキラとミリアリア。

「それにしてもいいですわね、ミゲル様は。皆さんお見舞いに来てくださるのでしょう?」

そんな中、可愛らしくスプーンの先を咥えたラクスがそう言って小首を傾げた。

「私に用意していただいたお部屋は私一人ですのでつまりませんわ」

そんな状態で不貞腐れたように頬を膨らますその姿は、とてもプラント最高権力者の娘とは思えない。

「し、仕方ないですよ。この艦は地球軍の艦だし……コーディネイターは怖いって言う人もいるって言うか……今は、敵同士だし……」

言葉を濁しつつもそう言ったキラ。
忘れかけていた先ほどのフレイの言葉が蘇る。
しかし……

「でも……キラ様や 、ミリアリア様やミゲル様、皆様が優しいのは、決して貴方達がナチュラルやコーディネイターだからだというわけではないでしょう?」

「…………え?」

「皆さんが優しいのは、皆さんが皆さんだから、でしょう?」

何でもない事を言ったようにニッコリ微笑むラクス。
しかしその言葉はキラ、ミリアリア、ミゲルの三人に思う所を残した。
それぞれが今まで心のどこかで仕方のない事だと諦めかけていた価値観を、根底から覆すという衝撃を。

「俺は、俺……か……」

「私は、私……そうだよね……」

「僕は……僕だから……」















それから暫くして、アークエンジェルに朗報が飛び込んできた。
マリューの直属の上司であるハルバートン提督率いる第8機動艦隊からの通信が飛び込んできたのだ。
その先遣隊が合流に向かっているそうで、そこにはフレイの父親であるジョージ・アルスターもいるらしい。
自分の父親が近くまで来ているという喜びで一杯のフレイと、婚約者の父親という事で面識ある人物という意味ではフレイと同じくらい喜んでいるサイ。キラ、トール、ミリアリア、カズイの4人もまた、合流できれば艦から降りられそうだと知り、ほっと一息ついていた。
そんな喜びに包まれる居住区域の中、表情の険しい人物が二人。

「まぁ、降りられるってのには素直に喜びたいけど……」

一人は に協力してミゲルを助けた女医。そしてもう一人は……

「ミゲルとラクスは……無事解放されるわけないよなぁ」

当然の事ながら だった。

「よりにもよってアルスターか……ブルーコスモスかぶれのあんなのにこられたら二人は……」

「どうするの? 君」

「……先生こそ……何か企んでますね?」

「私は……助けられる命は助けたいのよ。医者として……人として」

「……いざという時は……頼らせてもらいます」

「もちろん。こっちこそ、頼りにしてるわよ?」

「分かってます」

蒼い瞳を鋭く光らせ、 は小さく呟いた。

「いざという時は……プラントに亡命してでも二人を助ける」



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