Find a Meaning of Life

Phase 07























! ここを頼むっ!」

その揺れが明らかに攻撃を受けたものだと一番に気がついたのは、操舵士のノイマンだった。
いまだにガルシアを含めたユーラシアの人間がいる中、彼はその場を瞬時に に託して部屋を飛び出した。

「マードックさんっ! トールッ!」

その声にすぐさま反応した は、自分の傍でノイマンの背中に銃口を向けようとした兵士数人を後ろから蹴り飛ばす。
ガルシアらすぐに動かなかった人間も、ノイマンの行動と の声に反応したマードックとトールが飛び掛って押さえ込み、それに触発されるように他の男性クルー達も手近な兵士達を押さえ込み始めた。
その間ものの数秒。
その数秒でアークエンジェルのクルーは事実上の艦の奪還に成功した。ノイマンの冷静な判断力と、その判断を信じてコーディネイターである自分の能力を最大限に利用する を初めとした彼を信用している人間の力によって。

「艦長達もこの騒ぎでおそらく戻ってくるだろう。 とキラはすまんがそれまでの時間稼ぎを」

「分かりました」

「はっ、はい!」

ブリッジに向かいながらマリューの代わりに指示を出すノイマン。
その言葉に素直に従いマードック達整備班と共に格納庫へと向かう二人。
結局マリュー達はムウの活躍もあってその後すぐに帰艦したが要塞の中からではどうしようもなく、ブリッツの足止めを暫くしている間に発進準備を済ませたアークエンジェルと共に爆炎に包まれるアルテミスから脱出した。

「……ねぇ、

「ん?」

格納庫に戻り、ブレイドから降りた に伏し目がちになりながら声をかけたキラ。
いつもどおりな に少々戸惑いながらも、

は……自分がコーディネイターなのにここにいて、大丈夫?」

と、ずっと気になっていた事を尋ねる。
しかし実際は、よほどフレイの発言がショックだったのだろう。そして が口にした、彼女がブルーコスモスの回し者という事も、今のキラには完全に納得出来ていなかった。

「キラ……お前がどんなにあの小娘にいれ込んでたかは知らないけどね? アレの父親がブルーコスモスの急先鋒でもあるジョージ・アルスターの一人娘ってのは紛れもない事実。なんだったら直接聞いてみるといいよ」

まるでそんなキラの本音を見透かしたような返答に驚きながらもキラは、 がフレイのみを悪し様に扱うのにイマイチ納得がいかない。

「そ、そんな……あの女って……」

「だから、キラの気持ちは知らない。ただ、俺としてはフレイ・アルスターは避けるべき相手。ザフトと同じくらいね」

「ザフトと……同じ?」

「そう。ブルーコスモスはコーディネイターは間違った存在だから殺せと言う。今のザフト軍の殆どは、そんな思いあがったナチュラルは全部滅ぼせばいいと思ってる。どっちも、相手の最後の一人を殺すまで戦争し続ける気だ。だから、俺はそんな思想に産まれた時から染まってるあの小娘は、盲目的に相手を滅ぼすのが正しいって信じてる軍人と同じくらい…いや、それ以上に、はっきり言って“嫌い”だ」

「で、でも……!」

「軍に入って刷り込まれた人間なら、ブルーコスモスだろうとザフトだろうと用は物事を片側からしか見れてないって事だ。だからもう片側を見せてやって、ソイツの価値観が変わるようなら友達にもなれるかもしれない。トールやミリィみたいに自分達の価値観を強くもってお前や俺を受け入れてくれるナチュラルがいるし、その逆だっていると思う。それは本当に、嬉しい事だ。でもフレイ・アルスターは違う。根本的に染み付いたもので、しかも世間知らずだから、本人にその気がなくても他人を不用意に傷つける。俺はそんな人間と仲良くできるほど出来た人間じゃない。嫌いなものは嫌いだ」

淡々と、理路整然とフレイを嫌う理由を述べていく に口を挿めなくなるキラ。
自分やトール、ミリアリアに対してはいつも優しい兄のように接してくれていた のそんな冷たい言葉に、しかし言っている事がもっともなだけに否定も出来ない。

「勘違いするなよ、キラ。俺はそれくらいでお前を嫌うつもりはないんだ。たとえお前がサイからフレイを奪って付き合ったとしても、お前個人に対する俺の態度はそれだけじゃかわらない。まぁ、二人の友人としては残念だけど、それは所詮当人同士の意思の問題だしね。でも、フレイ・アルスターに対する態度は、あの女が心根入れ替えない限り変えない。それだけだよ」

そう言っていつものように穏やかに笑う の笑顔を見ても、何処か心が晴れないキラ。
そんなキラに は、少しだけ咎めるような口調で告げた。

「価値観は人それぞれ、だろ? 俺が好きなものをお前が好きになる必要はないし、お前が好きだから俺が好きにならなきゃいけないって話でもないはずだ」

それだけ言うと は、それ以上何も言わずにキラに背中を向けて格納庫を出て行った。















アルテミスを脱出したアークエンジェル。
自らの言動で学生組から孤立し始めたフレイを何とかしようと傍についていたサイが謝罪するように促したりもしていたが、キラはその言動にこそ傷つけられはしたものの実害はなかったので、お嬢様育ちのフレイは自分は間違っていないの一点張り。 に対しては更に酷く、自分の言動で傷つけたキラには知らないの一点張りだったのに自分は の言葉で傷ついたと逆に謝罪を要求すると言い出す始末。
これには聞いていたトールとミリアリアも呆れ果て、それ以降二人は と共に医務室にいるミゲルの所に入り浸るようになった。

「……ま、しかたねぇんじゃねぇの?」

「で、でもさぁ……」

「そう簡単に納得は出来ないわよ」

そしてそんな医務室には現在は四人。
そこに がいない理由をミゲルに話していたトールとミリアリアだったが……

「まぁ、お前等がそう言ってくれるのは正直嬉しいぜ? そもそもユニウスセブンを落としたのもナチュラルってのは否定できねぇけど、民間人のお前達がそれに反感持ってるって分かっただけでも俺がここにいる意味はあったわけだ。でもな、お前等も俺も、それをしなきゃ生きられねぇんだろ?」

「……うん」

「ならそれしかないんじゃねぇの? だってそれが分かってっから作業にいったんだろ」

「……まぁな」

そう。
とキラはそれぞれMSで、作業艇とユニウスセブンの跡地で氷の破砕回収作業に出ていた。
アルテミスで補給を受けられなかった事で水不足が深刻になってしまった為ムウが出した、まさに苦肉の策だったが、 は他の学生達とは違って割とすんなりそれを受け入れていた。

「俺はまだ死にたくないし、死んで欲しくないからね」

モラルの高いトール達が難色を示す中一人、 だけは肯定的な態度で作業参加を決定。
結局キラも、そうしなければ皆死んでしまうと理解したのか渋々ではあったが協力に同意した。

「だろうな。アイツそういう所現実主義者っぽいしな」

その時の の様子を聞いたミゲルは、一人納得顔で小さく笑う。
まだ身体は完全ではないが、身体を起こすくらいは出来るようになっていた。女医の話では、もうそろそろ歩けるだろうとの事。

「主義者っていうか……うん。 は分かってるんだと思う。自分が大切にしてるものがなんで、それの為にどうすればいいのか」

「っていうか の場合、一番大切なのは命なんだよ。優先順位は友達とか好きな奴等と動物、自分、他人、嫌いな奴等の順らしいぜ? 俺一度だけ聞いた事がある」

「……へぇ」

トールの言葉に表情が真剣になるミゲル。
彼は気がついていた。 が人の命を大切だと言う時、決してナチュラルとコーディネイターという今の世の中では決定的だと思われている違いを口にしていなかっただろう事を。
そして同時に自覚する。
おそらく今の自分なら、 のそんな考えに同意出来るだろうという事に。

「ま、そう言う奴だから俺も助かってここにいるんだけどな」

そんな自分を何処か嬉しく感じつつ、ミゲルはそう言って空気を和ませる。
トールとミリアリアも、そんなミゲルとまるで旧知の友人のように笑い合う事が自然になっていた。 を通じて知り合ったナチュラルとコーディネイターが、その当人抜きでも普通に友人として。

「今更だけどさ、私の事はミリアリアでもミリィでも、好きなほうで呼んで?」

「俺も、トールでいいよ。でもミリィは俺の彼女だからな。そこんトコは忘れんなよ?」

そして気がついた。自分達が一度も互いの事を呼んでいない事を。
今更ながら互いに頭の片隅で意識はしていたのだ。目の前の人間は、今戦っている相手なんだと。
しかし今、ミリアリアとトールはその意識を自ら取り払った。
完全に認めたのだ。目の前のコーディネイターはキラや と同じ、自分が友達として付き合える人間なのだと。

「そいつぁミリィ次第だぜ、トール。客観的に見て、少なくともルックスじゃ俺の勝ちだからな」

だからミゲルもそれに答える。

「なっ!? おっ、お前…「ミゲルだ」…へっ?」

「俺の事はミゲルでいい。ったく、このままお前等といるのも悪くないとか思い始めた自分に腹が立ってきたぜ」

そういいながら表情も柔らかく笑うミゲルに、二人も声を上げて笑い出した。
丁度その時、

「……なんか楽しそうだね、三人共」

が戻ってきた。

「あらあら、本当ですわね。私もお話に加えては頂けませんでしょうか?」

ピンク色の歌姫を連れて。

「なっ!? ラッ、ラクスさうぐっ!!?」

突然医務室に戻ってきた が引き連れてきたピンク色の髪の少女。
その少女を見たミゲルは、自分が怪我人である事も忘れて立ち上がりかけた。

「お怪我をなさっているのでしょう? どうかそのままでいて下さいな」

そんなミゲルに優しく微笑みかけた少女、ラクスは、そう言ってそのままベッドに近づいた。

「士官室に入っていてもらおうって話だったんだが、退屈だろうと思って連れてきた。ミゲルが怪我してるって言ったら見舞いたいって言ってたし、ラクスが逃げ出したりするような娘じゃない事は知ってるから」

そう言ってラクスの為に女医が使っていた椅子を引き寄せる

「ありがとうございます、

小さく微笑んで礼を言ったラクスはそのまま座らずに、事態についていけないトールとミリアリアに向かってペコリと頭を下げた。

「始めまして。私はラクス・クラインと申します」
















「って事はなにっ!? ラクスさんって超有名歌手!?」

ラクスがここにいる事情と、彼女がプラント最高評議会現議長であるシーゲル・クラインの娘で、プラントでは歌姫として慕われている事を簡単に説明した とミゲルの話を聞いたミリアリアは、そう言ってラクスににじり寄る。
まるで友人が実は有名人だったようなリアクション。

「有名かどうかは分かりませんが、歌うことは大好きですわ」

ボケボケな返事を返すラクスとはイマイチかみ合うっていないが当人達はたいして気にはならない様子。

「で、キ、キラはどうしたんだ? プラントの住民としては礼の一つも言いたいんだが……」

「キラはサイ…まだここに来てない友達のところ。多分今頃無理矢理謝られてるんだと思う」

「なんだそれ……ってあぁ、例のブルーコスモス女ってか?」

「ぎくしゃくしたくないだろうとか言ってサイが無理矢理謝らせてるぜ、多分。 んトコにはこないだろうけどな」

「是非そうして欲しいな」

「俺もその場にいたかったぜ。 がそこまで毛嫌いするなんてな」

そんな女の子二人に割り込めない男3人は少し外れて別の話題に切り替えた。
しかしあらゆる意味で空気を読まないのがこのピンクの少女、ラクス。

「あら、 は昔はもっと不器用な方でしたわ」

「「「…………え?」」」

「なかなか表情をお変えにならなくて、信頼なさっている人とそうでない人の区別がはっきりしていらして、話し方も荒々しくて……私も暫くはお話していただけませんでしたもの」

「…………ラクス」

やってしまったと額に軽く手を当てる

「昔は優しさまで不器用でしたけど、随分と柔らかくお成りに……あら?」

そこでラクスは初めて自分の話に 以外の3人が着いてきていない事に気がつく。

「私、何かおかしな事を言ってしまいましたか?」

そう言ってきょとんと首を傾げたのが合図になったように、3人が一斉に口を開いた。

「ちょっ!? 昔ってなにっ!?」

「ラクスさんって と知り合いなのっ!? ってそういえばラクスさんさっきから の事普通に名前で呼んでるっ!?」

「おっおい ッ!? お前どういう事だっ!? ラクス様とどういう関係だっ!?」

まさに詰め寄るといった感じの三人。
はともかくラクスは、気さくではあれ詰め寄られるといった経験はなく、

「あ、あらあら?」

と少々困惑気味。
次々と とラクスの関係を聞こうと口を開く3人に、しょうがないと が口を開こうとした時、

「お邪魔します。 はいますか……って、何? 皆どうしたの?」

キラが を探して医務室に入ってきた。
そしてトール、ミリアリア、ミゲルに詰め寄られるラクスと を見て思わず唖然と目を見開く。
そんなキラをみた は、大きな溜め息を一つ吐いてキラを中に招き入れた。
そして医務室にロックをかけると、

「……ここで話す事は絶対に他には洩らさないでくれな?」

と前置き、全員が頷くのを確認してからゆっくりと話し始めた。

「まず初めに……俺は第一世代じゃない。何世代目か分からないけど、両親ともコーディネイターのはずだ」

「あん? はず、ってのはどういう事だ?」

「知らないから。俺は捨て子なんだよ。詳しい事情は言えないけど両親に捨てられて、色々あってずっと孤児の仲間とストリートで暮してた。そこを、そこにいるラクスの親父さんの知り合いの人に拾われたっていうか助けられたんだ」

「そして暫く私達と暮しておりましたのよ。私、お兄様が出来たようで嬉しくて、いつも着いて回っておりましたわね?」

嬉しそうに話すラクスに苦笑で答える

「で、暫くして俺はオーブのマルキオ様って人の所に行く事になってラクスとは離れて、それからはキラ達も知ってのとおりって事」

そう言って少し肩を竦めるようにする。

「知られて不都合がある訳でもないんだけど、見る目が変わるとそれなりにややこしいからね。でもまぁ皆はそんな事も無いだろうし、ラクスが知り合いだってバラしちゃったから話した」

「申し訳ございません。迂闊な事を喋ってしまって……」

「いいよ、ラクス。ここにいる皆は信頼してるから、いずれは話すつもりだったし」

唯一 の真の事情を知るラクスが申し訳なさそうに目を伏せると、 は差し出されるようになったラクスの頭を軽く撫でるようにして宥める。
ミゲルが指を刺して声にならない悲鳴を上げているのは、おそらく口を聞くのも恐れ多いプラントの歌姫相手にそんな暴挙に出た への精一杯の避難だろう。

「……なんか……妙に羨ましくね?」

「う、うん……」

トールとキラは可愛い女の子とお世辞抜きで言えるラクスにたいしてまったく物怖じせずにそんな事の出来る に羨望に近い視線を向けていた。
もっとも、

「なぁぁぁにぃぃぃがぁぁぁ? 羨ましいのかなぁぁぁぁぁぁ?」

彼女持ちのトールの目にはすぐに“怯え”の色が強くなることになったが。

「え゛っ!? あ゛っ! いやその……そ、そうっ! 俺もミリィの頭撫でたりしたいなぁ……なんて思ったり?」

「…………ホントに?」

「もっもちろんっ! あ、でも出来れば皆の見てない所とかのほうが……」

「もうっ! トールったら♪」

彼女持ちも色々と大変なようだ。
宥めようと口を挿もうとしてその行き場を失ったキラがどうしていいのか困惑する中、いつの間にかそれを観賞する事に専念しだしたその他のコーディネイター組。

「あらあら。楽しい方々ですわね」

「ええ……ただナチュラルだコーディネイターだって戦うのが間違ってるんじゃないかと思うようになりました」

「それは……とても良い事だと思いますわ」

「……え?」

「戦う事、戦争とはすなわち相手の命を奪う事。自分が何故そうするのか。その意味を考える事は決して間違ってはいないと、私は思いますわ」

トールとミリアリアの微笑ましいやり取りが目の前で繰り広げられる中ミゲルとラクスが交わしたそのやり取り。
唯一 だけが気がついていた。
ミゲルが小さく洩らした言葉を聞いたラクスの目が、今までのおっとりとした雰囲気からは考えられないほど鋭く光っていた事に。

「……さすがシーゲルさんの娘、かな」





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