Find a Meaning of Life

Phase 03























アークエンジェルの格納庫がMSの整備や物資の積み込みでごった返していた丁度その頃、学生達は彼らに与えられた船員用の部屋の一つに集まっていた。
備え付けられているベッドではキラが静かに寝息を立てていて、起きる気配はない。
も、眠ってはいないもののベッドに横になってぼーっと天井を見つめていた。

「この状況で寝られちゃうってのが凄いよな」

そんな中カズイがポツリと呟いた。

「疲れてるのよ。キラ、ほんとに大変だったんだから。 は? 寝れないの?」

「いや。俺はアレ動かしただけだからね……それよりもミリィ。少し恥らってもらわないと、俺としても視線の持っていき場に困るよ」

そう言って苦笑しながら少し顔を逸らす
ミリアリアがその意味を確認しようと自分の足元のほうへ視線をもっていくと……

「なっ?! ちょ、もうっ!」

の位置からだとミリアリアの足が、かなり際どいところまで生で見えてしまっている事に気がついた。
の冗談めいた言葉に顔を真っ赤にしてしゃがみ込むミリアリア。
しかし折角和らぎかけた空気だったが、またしてもカズイが、

「大変だったか。ま、たしかにそうなんだろうけどさ」

と呟いてぶち壊しにする。

「何が言いたいんだ、カズイ」

「別に。ただキラにはあんな事も大変だったで済んじゃうんだなってさ」

たしかにナチュラルである彼らには到底出来る話ではない。
始めてみたMSのOSを戦闘中に書き換えて乗りこなし、敵を撃退するなど。
言葉もないトール達を完全に無視する形でカズイはコーディネイターであるキラが、そして敵とされているザフトがいかに自分達と違うかを並べ立てる。
恐らくカズイはただ自分が抱えている不安を口に出して、少しでも軽減させようとしていたのだろう。
しかし、そんな事を許さない人物が一人。

「それなら俺だって、燻製になりそうになりながらOS書き換えたが? 俺には何もないのかな?」

はそう言いながら静かにベッドから身を起こした。
そしてカズイを睨みつけて立ち上がる。

「怖いのは分からないでもないけどね、気を紛らわしたいなら自分の事話しておくに留める事をお勧めするよ? 俺は元々自分から言って回ったから言われなれてるけど、キラはそうじゃないんだ。友達ならもうちょっと考えてやるべきなんじゃないかな?」

あくまでも冷静な口調を崩さず、しかし言葉にきちんと棘を含ませた は、そう言って部屋を出て行ってしまう。
後に残されたのは、自分の失言に気付いていないカズイとそんな彼を咎めるように睨むトール。そして今だ目を覚ます気配もなく死んだように眠るキラを心配そうに見つめるサイとミリアリア。

「……な、なんなんだよ?」

そんな情けない声を無視しながら、三人はさっきの の言葉の意味を考えていた。




















「お断りします! 僕達をもうこれ以上、戦争になんか巻き込まないで下さい」

あてがわれた部屋の前でいつになく強い口調のキラ。
そのキラの目の前にはマリューが困ったような表情で立っていた。
サイ達は室内からそんな様子を窺っている。

「僕等は戦いが嫌で、戦争が嫌で中立のここを選んだんだ! それなのに……」

そんな口論をしている間にも艦内には警報が鳴り響く。
もう敵が攻めてきているのだ。

『ラミアス大尉、ラミアス大尉。至急ブリッジへ』

「どうしたの?」

手近な通信機で応答したマリュー。
そこにムウの緊張したような声が響く。

『MSがくるぞ! 早く戻って指揮を執れ! 君が艦長だ』

「わ、私が?」

『先任大尉は俺だが、この艦の事はわからん!』

「……分かりました。では、アークエンジェル発進準備。総員第一戦闘配備。大尉のMAは?」

諦めたような、仕方ないといったようなため息を一つついた後基本に忠実に対処しようとするマリュー。
しかしムウのMAは前回の戦闘の際の破損で出撃不可能。
しかたなくムウにCICの担当を頼んだマリューは、通信を切ってキラ達を振り返る。

「聞いてのとおり、また戦闘になるわ。どうにかこれを乗り切らないと、ここはもう貴方達を下ろしてあげる事もできないわ」

「卑怯だ! 貴方達は!」

勤めて冷静に、客観的に艦長の立場の人間としてそういったマリューに帰ってきたのは、キラのそんな罵りだった。

「そしてこの艦のMSを扱えるは今は僕だけだって言うんでしょ?!」

そんな言葉を辛そうに、しかし甘んじて受けるマリュー。
しかしそこに、

「そんなこともないよ?」

とキラの後ろから が走ってきた。

「マリューさんって呼ばせてもらいますよ? で、状況は?」

「え? は、はい。ザフトのMSが接近中。コロニー内での戦闘に……」

「では俺があのプロトタイプでやってみます。空中戦も出来るみたいですし。いいですか?」

「え? で、でも……」

テキパキと状況を聞きだしていく に、聞き出されている側のマリューが混乱する。
先ほどまで説得しようとしていたキラには罵られたというのに、もう一人は殆ど何も事情や説得の言葉も聞かずに全面的に協力しようとしてくるのだ。

「黙っていたら皆確実に死にます。出来る事もせずに死ぬのは、俺はゴメンですからね」

そう言って格納庫に走っていく
残されたキラ達やマリューはそんな後姿をただ見送っている。
そしてやがてキラも、

「…… 一人に押し付けるのは……嫌だ! 貴方達は卑怯だと思うけど、でも……やらなきゃやられるんでしょ!」

と睨みつけるようにマリューを一瞥して走り去っていった。
それを今度は見送らず、マリューはブリッジへと駈けていく。
そんな二人の後姿を、サイ達はただただ見送るしかなかった。


























「おい青年! プロトGは試験機だが能力は他のとたいしてかわらねぇ。自身持っていっていいぞ!」

「初めてまともに乗るのにどうやって自身持てと言うんです?」

「なぁに性能の話だ! あと俺はマードックだ! 覚えとけ!」

「俺は です。出来れば名前で読んでいただけますか?」

「わぁ〜ったよ! じゃあ 、シュベルトゲベール忘れんなよ?!」

「それってこの剣ですね?」

キラが格納庫に着くと とマードックが着々と準備を進めていた。

「お、坊主もきたか。ストライクはソードで用意が出来てる。早く行ってくれ」

「あ、はい。でもなんで?」

不思議そうなキラにマードックは豪快に笑いながらマリューからの連絡があった事を告げる。
それを聞いてすぐにストライクの元へと駆け出そうとしたキラは、しかしプロトタイプGのコクピットで作業している に声をかけた。

「お、キラ。来たのか」

穏やかないつもの にキラは安心したような笑みを向ける。

「うん。 一人には任せるのは嫌だったから」

「それはどうも」

少しそっけなく聞こえる の言葉を聞き、キラは少し寂しそうにストライクへと向かう。
そんなキラに は……

「生き残るぞ、キラ」

「?! ……うん」

短い言葉のキャッチボール。
それだけだがキラは理解した。
だって、緊張しているんだという事を。
そしてキラにとってそれは拠り所になった。
皆で一緒に生き残るために、今は剣を取らなければいけない。
そんな自分と同じ立場で気持ちを分かってくれる唯一の存在は、キラの中で確実に大きくなっていった。























準備がすでに出来ていたキラのストライクは先に出て行った。
そしてすぐに の乗るプロトタイプGが発進準備に入る。

『プロトタイプG、 。発進準備はいいか?』

君、ありがとう』

モニターが浮かび上がり、無表情のナタルと申し訳なさそうに表情を歪めたマリューの顔が映し出される。

「いつでもいいですよ。あ、でも一つお願いがあるんですが?」

『なんだ?』

「この機体、プロトタイプGって呼びにくいですし……そうだな、“ブレイド”って呼ばせてもらっていいですか? 装備はこの剣が主力になりそうですし」

『き、貴様いくらプロトタイプとはいえ軍の最高機密にそんな理由で……しかもこの状況で!』

わなわなと震えているナタル。まさしく怒り心頭に発するといった感じだ。
マリューもため息をついて額に手を当てている。
おそらく呆れているのだろう。
しかしそんなやり取りを聞いていたムウはとうとう堪えきれずに噴出した。

『お前ほんとに面白い奴だな! 艦長、俺からも頼むわ。たしかに呼びにくいと色々不都合だし、コードネームみたいなのは必要だろ? ストライクみたいにさ』

『なっ?! ふ、フラガ大尉まで……!』

『はぁ……いいわ、許可します。プロトタイプGは今後コードを“ブレイド”と変更。 君、お願いね』

もう今日だけで何度目か分からないため息をつくマリュー。

「了解。死なないよう祈っててください」

そして は息を大きく吐いて前を見据えた。
その目はそれまでの飄々として掴み所のない彼ではなく、完全に戦う人間の目になっている。
それをモニター越しに見ていたムウが思わず感心して息を呑んだのを気にも留めず、 は静かな、しかし良く通る声で告げた。

。ブレイド、発進します」














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