「………………う…………ん…………ダ……ダメだよ黒崎くん……それはプーさんじゃなくてピータン…………似てるけど違うの…………」

「……い、井上……?」

「……あ…… ………………あたし………………」

「え? たつき、起きたの?」

魘されている(?)織姫と、幸せそうな竜貴を、それぞれチャドと が覗き込む。
結果は…………

「ムリだってばぁっ!!!」

「!?」

○井上織姫VS茶渡泰虎●
決まり手――ソニックヘッドクラッシュ(高速頭突き)

そして…………

「…………う……ん…………へっ!?」

「はよ、たつき」

「っ!?!?!? ……お、おはよぉ……」

●有沢竜貴VS
決まり手――至近距離からの目覚めの挨拶(?)

とまぁ、冗談はさておき、今四人は何処にいるのかというと……

「おや。ようやくお目覚めみたいっスね」












織姫と竜貴が学校で戦う少し前、チャドもまた虚に襲われ、能力に目覚めてそれを撃退していた。
その後やはり慣れない能力の行使とそれまでに負った傷もあって気を失い、テッサイに担がれてここ、浦原商店に連れてこられた。
織姫達より少し先に目を覚ましたチャドは、その場に座って本を読んでいた に、全員目覚めたら説明してくれるらしいと聞いて待っていたのだが、その時チャドは、 も自分と同じような状況にいたのだろうという認識しかなかった。
しかし……

「さぁ……もう全員目覚めた。聞かせてくれ。俺達に妙な力が生まれた理由、そして、それと一護との関係を」

そう言って喜助を問い詰めようとしたチャド。
しかし喜助は飄々とした笑みを見せながら を一瞥した。

「黒崎さんとの関係…だけでいいんスか?」

その言葉に一瞬だけ、肩を震わせて反応する
その反応を見て苦笑を浮かべた喜助は、まだ何も分からないといった様子のチャド、織姫、竜貴に逆に問い返す。

さんとの関係…とかには興味、ありません?」

「……え? ?」

「ええ。 さんです。なにせ、チャドさんに関しては一概にそうとも言えませんが、井上さん、そして何より有沢さんの能力の目覚めには、黒崎さんよりもむしろ さんの力のほうが深く関与してるみたいっスから」

「……ど、どういう事だよ? なんで ……っ!? まさか!?」

「そう。 さんは、皆さんが能力に目覚める以前から力を持ってたんですよ。そして、その力で貴方達を影から護っていた。そうっスよねぇ、 さん」

「……そんな、大した事はしてないです。結果的には、その所為で皆の力の目覚めを促進させてしまったんだから」

「それは結果論スよ。井上さんのお兄さんの時、貴方があの場にいなければ黒崎さんは間に合わなかったし、お兄さんは虚として井上さんと有沢さんを“喰って”しまっていたでしょう。チャドさんとインコの時は結果的に関わらなかったようですが、貴方はきちんと影で見守っていた。そしてこの間のテレビのロケの時、貴方が盾を張らなければこの三人、そして黒崎さんの妹さんは確実に霊圧に中てられて体調を崩していた。黒崎さんが目覚めてから勘定してもこれだけ、貴方はこの人達を救ってるんですよ」

はその言葉に息を呑む。
自分がしてきた事を全て肯定してくれているからではない。ただ、自分が見られている事に気づけない程の実力があるのだと暗に言っている浦原にである。
何も言い返してこない に再び苦笑を向けた喜助は、しかしこれを期とばかりに語りだした。

「さて、じゃあ順を追って説明しましょうか。黒崎さんに起きた異変から、現在に至るまでを……」














「ちょ、ちょっとまってくれ」

「虚って……それに一護が死神?」

喜助が一とおり説明し終えた後、チャドと竜貴の口から出たのは、なによりも困惑の言葉だった。
織姫も、言葉にはださないが混乱しているのが簡単に見て取れる。
は、何も言わずに黙ったままだった。

「なんスか? 信用できない? 話が突飛すぎますかねぇ?」

そんな喜助の言葉に一同肯定の意を示すが、喜助はそれを、

「なら否定しますか? しかしそれなら順番が違う。先ほど君達が襲われたばけもの、あれが虚っス。こっちの話を否定したいなら、先ほどキミ達が受けた恐怖と痛み……先ずはそっちから否定しなくちゃ」

と、一蹴してみせた。

「……黒崎一護……彼は、巻き込まれたとはいえ並外れた死神としての力を持っている」

そして、喜助の言葉に反論の余地がない三人に喜助はまた語りだす。

「しかし、彼はその力を使う術をまだ知らない。だから結果として彼の能力はやみくもに流れ、そしてあらゆる霊なるものに影響を及ぼす。そう、キミ達にもそれは然り。そして、そんな黒崎さんの異変を感じ、影から力を貸そうと、キミ達を護ろうとしていた さんの力もまた、それを行使する際は付近の霊なるものに影響を与えてしまうんス」

喜助は、帽子を目深に被って結論を伝える。

「思い出してください。キミ達はすでに幾度か、死神姿の黒崎さんと接触した事があるはずだ。そして、力を行使した さんの傍にも、キミ達は居合わせている。そう……キミ達の力は、それらの接触によってキミ達自身の魂の底から引きずり出された、キミ達本来の能力なんですよ」

「黒崎くんと、 くんと接触して、あたし達の能力が引きずり出された……?」

ようやく口を開いた織姫のその言葉は、やはり半信半疑といった感じだった。
しかし喜助はその問いに、こともなげに肯定の返事を返す。

「ちょ、ちょっとまってください」

「そ、そうだよ、えっと…浦原さん、だっけ? 意味がよく……」

「分からなくて結構。キミ達は別に病にかかったわけじゃない。ただ、目の前に現れた扉の鍵を、黒崎さんと さんに渡されたようなもんですから。その鍵を使って扉を開くか閉ざすかはキミ達次第。開いたなら、その奥に足を踏み入れるか、もね」

その軽い口調の奥に隠れた言葉の強さが、喜助の語っている事がすべて真実である事を三人に告げる。
思わず息を呑んでしまった三人。そんな時、

「店長」

部屋の戸が開き、そこには、おそらく声の主と思われるテッサイが片膝を付いて控えていた。

「“空紋”が、収斂を始めました……!」

その場の誰にも、その意味は理解できない。
力はあっても知識はない も、それは同様。
しかしそれでも分かるのは、

「そうか……準備は」

そう言った喜助の調子から感じ取れる、それが決して好ましい出来事ではないという空気。
完全に皆を蚊帳の外にして話を進めた喜助は、をテッサイを引き連れて部屋を出よう。

「……ちょっと待て、浦原さん」

そんな喜助を止めたのは、説明中一言も発する事のなかった だった。

「虚の気配……一点に集まり始めてないか?」

「おやぁ、気付きましたか。……そうですね。付いてきてください。皆さんにも見せて差し上げますよ」

それに が気付く事は、もはや予想済みだったのだろう。
振り返った喜助はそんな を一瞥すると、その には何も言わずに他の三人に付いて来いと声をかけた。

「自分達で確かめるといい。これからキミ達が足を踏み入れるかもしれない世界を」











「……

喜助、テッサイ、ジン太、雨の後ろを、後を追うように歩く四人。
チャドと織姫がそれぞれ自分の中で先ほどの話を整理しようとする中、竜貴は一人、最後尾を歩く に近づいた。
隣に並ぶと、思いつめたような表情で口を開く。

「あの時、やっぱり だったんだ」

「うん……ごめ「そっか。ありがとう」……え?」

が一番危惧していた事。それは、今まで隠していた事を攻められることだった。
攻められて、そして避けられる。異端としてそれは当然であり、そして必然。
しかし竜貴は、そんな異端である に礼を述べた。

「夢じゃない気はしてたんだ。織姫の家に泊まった日の時も……さっきも」

「……記憶……残ってるの?」

「うん。少しずつ思い出した。だから、ありがとう」

竜貴に関しては、ルキアの記憶置換を受けていない。
思い出そうと竜貴自身が努力をすれば、あとは彼女自身の記憶力次第で大体の事を思い出すのはある意味当然の事だった。

「でもな……」

「……?」

ガスッ!

「っ!?」

「お前、何であたしに言ってくれなかったんだっ!?」

いきなり の頭に拳を振り下ろした竜貴は、そのままの勢いで大声を張り上げて の胸ぐらに掴みかかった。
そのあまりの剣幕に、前を歩く織姫とチャド、そしてそのさらに前方を歩く喜助達まで驚いて振り返る。

「知られたらあたしがアンタの事避けたりするとでも思ったのっ!? ずっと! アンタが空座に来てからの付き合いなんだぞっ! 隠されたほうがショックに決まってんだろっ!」

「い、いや、有沢さん? さんはずっとキミ達の力が覚醒しないように……」

「アンタは黙っててっ!」

「は、はいっス!」

さすがにむちゃくちゃ言ってる竜貴を見かね、 を弁護しようとした喜助だったが、一喝されて回れ右。ジン太に蔑みの視線を向けられて涙している。

「全部分かってるよっ! アンタがあたし達をずっと巻き込まないように、普通に過ごせるように黙ってたって事くらい分かってるっ! でもっ! それでもあたしはっ!……」

「……ごめん」

「謝ってなんか欲しくないっ! ……謝って……欲しいわけじゃないよ。……ただ……」

そして竜貴は、その潤んだ瞳で真っ直ぐに、 と視線を合わせた。

「これからは……無しにしてくれ。隠し事も……一人で戦うのも……」

それは真摯な、女の子としての竜貴の願い。

「あたしにも……ちょっとは分けてよ。 の背負おうとしてるもの」

それは強い、戦士としての竜貴の願い。
そんな竜貴に はただ一言、

「ありがとう」

少し嬉しそうに微笑んだ。













「どうやら……一番最初に、何を見るまでもなく覚悟を決めたのは有沢さんみたいっスね」

「あのネェちゃん、強そうだしな」

「違うよジン太君。そうじゃないよ」

「あぁ? なんだってんだよ?」

「まぁ、ジン太殿にはまだ分からないかもしれませんな」

「要するに……恋する女の子は最強って事っスよ」



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